【幕間】公爵令息と男爵令嬢のデート③
再び緊張した様子のダニエル連れていたかれた先は、アクセサリーショップだった。
入り口で思わず立ち止まってしまう。
「……ここは」
「是非、今日の記念に何か贈りたくて」
「誰かにプレゼントですか?」
メアリーはまさか自分にプレゼントなんて、信じられずダニエルに聞いてはいけないことを聞いてしまった。
「……ヘンリエッタ嬢のようなボケを重ねられるのは、流石に予想していませんでした」
まさかの返答に、ダニエルはズレた眼鏡を直す。
「もちろん、メアリー嬢以外にだれがいるんですか? 女性をデートに誘っておいて、別の女性へのプレゼントを買う非常識な人間ではないと自負しているのですが」
「す、すいませんっ。ダニエル様を疑ったとかではないんです! 今日色々していただいたので、これ以上していただくのが申し訳なくてっ」
「……そうですよね。メアリー嬢はやはりそう来ますよね」
「え?」
「では」
そこでダニエルは決意を込めて、メアリーを見つめる。
「俺がメアリー嬢にプレゼントしたいんです。お、俺の自己満足ですので、付き合ってくれると嬉しいのですが」
ヘンリエッタにアドバイスされたことを噛みそうになりながら言い切った。
内心、ドキドキである。返事をもらうまでの間がとても長く感じた。
メアリーは石像のように固まったかと思いきや、ボンッと音が出そうなほど顔を真っ赤にした。
驚くダニエルの目の前で、後ろに重心が傾いていく。
「メアリー嬢⁉︎」
慌ててメアリーの体を支える。しかし、あまり重労働に慣れていないダニエルは、メアリーの体を支えるのに些か軟弱だった。
メアリーの名誉のために言っておくと、彼女はヘンリエッタやパトリシアより軽い。
よろめきそうになるのを堪えながら歯を食いしばる。
「だ、だい、じょうぶですか?」
「だだだだだ、大丈夫ですっ‼︎」
飛びかけた意識が戻ってきたメアリーは、目の前に端正な顔が目の前にあることに、それこそ飛び上がるほど驚いた。
驚きすぎて、後退りして壁に激突してしまう。
しかし痛みを感じる余裕もなかった。
急に腕からいなくなり、少し寂しく感じたダニエル。それと同時に、流石に少しは体を鍛えようと思った。
なにせ、間近でみたメアリーがとてもかわいかったから。
「わわわわわかりましたっ。そ、そこまで言うならかってもらいましゅねっ……あ、えっと」
最後に噛んでしまい、恥ずかしそうにするメアリー。ダニエルは笑いながら、頷いた。
「ありがとうございます。それでは行きましょうか」
「ひゃい」
ああ、これがパトリシアとメアリーが話している、“萌え”と言う感情かもしれない、とダニエルは思った。
アクセサリーを見るメアリーだが、先ほどのダニエルを思い出してしまい中々入ってこない。
そう、ヘンリエッタの言っていた“特別感”で見事に翻弄されているのだ。
それでもネックレスや指輪なんて買ってもらうわけにはいかないので、自然と髪飾りの方に移動していく。
自分の思考に集中しているメアリーは、その様子をじっと見ているダニエルに気がつかなかった。
数十分が経っても、メアリーは決められない。色々思考が邪魔をしてしまうのだ。
(さ、流石にそろそろダニエル様が、痺れを切らしてしまうかもっ。ど、どうしよう)
いいのがないと言うことではない。素敵なものばかりだ。
けれど買ってもらうと言うのが、メアリー自身思っているより重荷だったようだ。
だから決められない。焦りが募るの中、ダニエルが話しかけてきた。
「メアリー嬢が嫌いでなければ、これはいかがですか?」
そう差し出してきたのは、小さな花の装飾が施された髪飾りだった。花の色は白く、可愛らしい。
「これは……」
「この花はブバルディアと言うそうですよ。先ほど店員に聞きました。メアリー嬢にぴったりだと思いまして」
知っている。これは、前世で花嫁のブーケとしても有名な花だった。花言葉は誠実な愛。
ダニエルがどんな理由であれ、それを知っているメアリーは気軽に受け取ることなんて出来ない。
それこそ、ダニエルが本当に似合うだけで選んでいたら、それこそ羞恥で死ねそうだ。
そんなメアリーの内心を、ダニエルはきちんと理解していた。
それも花を贈るときは、その意味も考えた方がいいというヘンリエッタ達のアドバイスのおかげだ。
「……メアリー嬢が考えている意味で受け取ってください」
「ダニエル様……私は」
「貴女が俺の手を取ってくれるなら、これ以上の幸福はない。どんな壁も、俺が壊して見せる。貴女を全ての脅威から守って見せる」
「ちょ……っ」
ここは普通のお店だ。そこで告白紛いのセリフを吐かれたら、それこそ羞恥で死ねる。
「卑怯なことは分かっています。けれど、ここで言わないとメアリー嬢は躊躇するでしょう? それに、俺としては噂がたっても構わないと思っています。……ずるいですが、それで貴女が逃げられなくなるなら本望です」
「そんな……」
誰かこれを断れる人がいるなら、ここにつれてきて欲しい。それくらい熱を孕んだダニエルの頼みを断ることなんて出来なかった。
メアリーは気が付いたら頷いて、プレゼントを買ってもらい、店を出ていた。
「メアリー嬢」
「は、はい」
「俺は本気ですよ。公爵家の力を使ってでも、貴女と結ばれたいと思っている。……そして貴女も、本心では望んでくれていると……自惚れだと言われようが信じています」
「…………」
ダニエルはこんなにも強引な人間だっただろうか。
そんなことを考えてしまう。現実逃避ともいう。
「……驚きました? 俺が強引で」
「まあ、そうですね」
「嫌ですか?」
「……嫌ではないです。その、意外だと思っただけで」
「その強引さはヘンリエッタ嬢の影響ですね。彼女には散々揶揄われましたから」
「ああ……」
ヘンリエッタは強引なことが多い。それでも、距離感を測るのがうまく、嫌がることはしない。許容範囲で好き勝手しているのだ。それが相手の肩の力を抜くことにも繋がるのだから、本当に凄い。
「ちなみにダニエル様はヘンリエッタ様を恋愛対象として見たことはないのですか?」
「無いですね。彼女は俺に近づこうとしませんでしたし、親しくなる頃には殿下がロックオンしてたので」
「なるほど」
それにホッとしていることに気がつくメアリー。
自身はほとんど経験がないけれど、さまざまな乙女ゲーム、小説を読んできたことで、自覚せざるを得なかった。
これが推しとは違う感情、“恋”なのだと。
感情だけで動くのはとても簡単だ。このままダニエルの手を取ればいい。
メアリーはヒロインだ。元々の潜在能力も高い。光属性という希少な魔術の使い手でもあるのだ。それだけでも、十分高位貴族に嫁げるだけの資質はある。
それでも、前世の自分は自信がない。それは自己肯定感が低いからということに他ならない。
ふとメアリーは悟る。これは壁だ。自分が乗り越えるべき。
この学園に来た時、パトリシアやヘンリエッタと共に進むと決めた時と同じだ。
ダニエルがどんなに頑張ってくれても、それでは意味がない。自分が、自分に自信を持たないといけないのだと。
パトリシアとヘンリエッタのことを思い浮かべる。2人とも高位貴族の令嬢らしく、気品に溢れている。それも2人の努力があってこそ。
その2人が、メアリーの友人になってくれている。メアリーを尊重していることも理解している。
その2人が、絶対的な味方になってくれると信じることが出来る。その信じてくれている2人がいるのに、自分を信じられないのは傲慢だとメアリーは思った。
そのことを理解すると、メアリーは自然と答えていた。
「私もダニエル様が好きです。きっと険しい道のりになると分かっていても、貴方の隣にいたい。どうか、わたしを隣にいさせてください」
そう言った時のダニエルの顔を、メアリーは一生忘れない。とても幸せだった。
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