【幕間】公爵令息と男爵令嬢のデート②
お互いギクシャクしながら、馬車に乗り込む。
座るといつもより静かに動き出した。
しばらく、無言の時間が続く。
「……メアリー嬢は、キャンベル男爵にとても愛されていますね」
この無言の時間を破ったのはダニエルだった。
メアリーは頷く。もう、前のように疑うことはない。
「はい。色々ありましたが、今は胸を張って、自慢の父親だと言えます」
「そうですか。良かった」
「まだお互い距離を測っているところはありますが、それも少しずつ良くなっているんです」
「13年も離れ離れだったのでしょう? 後は時間が解決してくれますね」
ダニエルの微笑みがこちらに向けられていることに、メアリーの心臓は落ち着くことを知らない。
(なんだろう……。前とは違う……。けれど何が違うんだろう?)
メアリーは自分の気持ちが変化していることをなんとなく、理解した。けれど、何が違うのか分からない。
推しとして見ていたときも、胸の高鳴りは何度もあった。それこそ何度も気絶するくらいには。
胸が高鳴ることは同じなのに……。なんて考え込んでいると、最初の目的地に到着した。
馬車が止まり、ダニエルにエスコートされながら降りる。
「ごめんなさい。その……」
1人考え込んでしまった時間はどのくらいか分からないが、それなりにあったはずだ。
ほったらかしてしまい、申し訳ない気持ちになるメアリーにダニエルは。
「いえ。その……物思いに耽るメアリー嬢も…………か、可愛らしかった……ですよ。いつも3人で明るい印象、だったので」
「! え、えっと、その……あ、ありがとう、ございます…………」
ダニエルが顔を真っ赤にしながら、絞り出された言葉に、メアリーの胸はまた高鳴る。このままでは、破裂しそうだ。
馬車から降りて手を離そうとしたけれど、ダニエルはそのままエスコートしていく。
もう顔を上げられなくなってしまう。それはダニエルも同じだった。
その姿は正に初々しい恋人そのもので。周りの人が自然に笑顔になってしまうくらいの、多幸感に満ちていた。
その中にはダニエルを慕う令嬢もいたが、その空気に失恋を察するのと同時に、うっとりとしてしまっていた。
それくらいに、お互いを想う空気が2人から溢れていたのだけれど、2人がそれに気がつくことはなかった。
「き、今日は、民衆向けにアレンジされた、陛下の若かりし頃の活躍を題材にした演劇だそうです」
「そうなんですね。元々気になっていたので楽しみです!」
メアリーは元々、前世の記憶でこの世界を知っている。演劇のことももちろん話の中にあった。
イベント通りであれば、恋愛ものであったけれどダニエルと2人で観るのはハードルが高いと感じていたので嬉しい。
メアリーが笑ったことにダニエルはホッとした様子を見せて、用意された席に着いた。
演劇はとても良かった。時折ヘンリエッタ達が陛下のことを尊敬している話をしていたが、この演劇でその理由がメアリーにも良く分かった。
演劇場から退出し、次の目的地に向かう馬車の中は先ほどと違い、メアリーが感想をはなしていた。
「ヘンリエッタ様が陛下を尊敬している気持ちがよく理解できました。今、私が学園に問題なく通えているのも、陛下のおかげですね」
「ええ。陛下は王太子の頃から、色々と政策を思い切ったものに変えようと提案されていたそうです。さらに先王もそういうことに理解があったので、今の状態になっているのでしょう」
「そんなに若い頃から……。けれど殿下を見ていると納得もできます。殿下も今の陛下や先王が居たから、より聡明になられているんですね」
「そうですね。特にお2人の姿を見てきた殿下は、ある意味集大成といえるくらいに、立派になられていると思います」
「そう言えば、殿下とダニエル様は、パトリシア様達より付き合いは長いんですか?」
「同じくらいですね。殿下の誕生日パーティーで顔合わせをしてからの付き合いです。まあ、パトリシア嬢は良いとして、ヘンリエッタ嬢とは学園に入学してから関わるようになりましたが」
「あはは……。なるほど」
ヘンリエッタの事情を知っているメアリーは、苦笑を返した。そうこうしているうちに、次の目的地に辿り着く。
「馬車では行きづらいとこにあるんです。歩かせて申し訳ないですが」
「とんでもありません」
緊張が解れたおかげか、先ほどより緊張なくエスコートを受けるメアリー。
少し歩いて着いたところは、ひっそりと立つ小さなレストランだった。
中に入ると、平民や富裕層らしきお客さんが入り混じっている。小さいながらも、繁盛しているようだった。
「予約していたバーナードだ」
「ようこそいらしゃいませ。こちらにどうぞ」
バーナードの名前で出しても物怖じせず堂々と接客するところをみると、貴族もお忍びなどでよく来るのかも知れない、とメアリーは思った。
案内されたのは個室。シワひとつないテーブルクロス。
メニュー表に目を落とすと、色々な料理がある。お値段も、メアリーが覚悟していたよりずっと良心的だ。
内心ホッとしているのを、思い切りダニエルに見られているのに気が付かず、何にしようかと目を輝かせた。
そしてその様子を見て、ダニエルはヘンリエッタ達のいう通りだったと、こちらも胸を撫で下ろしたのだった。
「こんな素敵なところを、よく知っていましたね」
「父が色々情報を集めてくるんです。やはり宰相だと国の色々な情報を知っていた方が何かと有利になると、実際に足を運ぶことも多いですね」
「ではここは、公爵様のおすすめなのですか?」
「それもありますが、私も一緒にきたことがあってとても良かったので是非メアリー嬢にも食べてほしいなと思ったのです」
「嬉しいです。ありがとうございます」
料理が運ばれてくる。メアリーはトマトのパスタ。ダニエルはビーフシチューを頼んだ。
「「いただきます」」
そしてフォークでパスタをとり、口に入れると新鮮なトマトの酸味が口に広がる。
「とても美味しいです」
目をキラキラ輝かせながら感動するメアリーに、内心とても喜んでいるダニエルである。
「お気に召していただけたようで何よりです」
「はいっ。こんなに美味しいのに、思ったよりお手頃な値段で驚きます。一体どんな工夫を……」
「ふっ……」
「あ、ごめんなさい。はしたなかったですね」
「いいえ。そこがメアリー嬢の魅力です。とてもキラキラしていて素敵ですよ」
「‼︎」
深い緑の瞳が真っ直ぐ、それでいて柔らかくメアリーを見つめる。
急にそんなことを言われて、頭が真っ白になりかけるのを水を飲んで落ち着けた。
正直、あんな風に言われてしまっては、味が分からなくなってしまう。
それでも初めてみるダニエルの表情に、メアリーも緊張は無くなった。
今日の初めよりもずっと柔らかい雰囲気で食事を終える。
もちろん、支払いはダニエルだ。メアリーはお金を持とうとしたけれど、男爵に止められたのだ。
『こういうときは、ダニエル殿に花を持たせるといい。そのために彼も色々考えているはずだから』
そこは納得したけれど、何かあった時のために一応お金を持たせてもらったメアリーだった。
あわよくば、お礼に何かプレゼントしたい。何をプレゼントしたらいいのか全くわからないけれど。
プレゼント買えるお店も寄れるか分からないけれど、用意しとくに越したことはない。
「ありがとうございます、こんな素敵な食事も頂いて」
「喜んでもらえて良かったです。……最後に一つ、いいですか? 付き合ってほしい場所があるのです」
「はい、もちろんです」
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