謝罪していたはずが……
次の日。教室でパトリシア様を見つけた瞬間に、荷物を一旦置くのは忘れずに近づいた。
「パトリシア様、おはようございます」
「ヘンリエッタ様、おはようございます」
「昨日は申し訳ございませんでした。淑女としてあるまじき行動を取ってしまいましたわ」
「まあ困ったのは事実ですが、背景を考えれば仕方ないものでもありましょう。それでも謝罪は受け取りますわ」
「ありがとうございます」
「昨日より目の下の隈は良くなっておりますわね。本当に最近の貴女は無理しているように見えたので心配していたのです。ねぇ、メアリー様?」
「はい。本当に心配でした」
パトリシア様がわたくしの後ろに呼びかける。振り返るとメアリー様がいた。
「メアリー様、おはようございます。昨日は申し訳ありませんでした」
「おはようございます。昨日のことは私のせいでもあるんです。ヘンリエッタ様に色々良くしていただいたのに、そのご恩を反故にしたようなものなのですから」
「そう言っていただけるのは嬉しいですが、しかし昨日はひどかったと思いますの」
「まあ今までで一番の暴走でしたね。私としては眼福でしたよ? やはり美少女が絡んでいるのを見るのは目の保養です」
「メアリー様、貴女も他人事だと思って……。けれど昨日で確信しましたわ。ヘンリエッタ様が大丈夫だと言っていましたから静観していましたが、今度からは強制的に休息をとらせましょう」
「それが良いですね。教室で始まった日には、お2人の結婚話が広まりそうです。元々、噂がありますから」
「流石に大勢の前では自制できますわ! それに女性同士で結婚できません!」
パトリシア様の目が鋭い。絶対に無理をさせないと言う圧がある。彼女が一番の被害者なのだから当然だ。
そしてメアリー様の発言には流石に反論する。あの時はもう気心知れている仲の人たちしかいなかったから気が抜けたと言うこともあるのだ。
いくらなんでも、大勢の前で見境なくなるなんてない。侯爵令嬢として矜持が許さない。
どの口が言うんだとか突っ込まれてもおかしくないことは自覚しております、はい。
「まあそれよりイイモノが見れたので、私たちも怒っていませんよ。そうですよね、パトリシア様?」
「そうですわね。あの時の殿下は初めて見ましたが、とても良いものでした。あれが”むねきゅん“ですのね」
「えっと」
「何せ殿下がご自身のジャケットをヘンリエッタ様の顔を隠すようにかけて、アルフィー様に『疲れが溜まっているからか、寝てしまったよ。私が送って行くから気にしないでくれ』だなんていうんですよ。あれは独占欲丸出しで良かったです」
「ええ。アルフィー様が一瞬でもヘンリエッタ様に手を伸ばそうものなら、体で隠してましたもの。実の兄にすら嫉妬を隠さない殿下に新しい扉を開いた気分でしたわ」
「それが“沼”ですよ、パトリシア様。殿下✖️ヘンリエッタ様の沼の入り口です」
「なるほど、これが……」
内容も気になるけれど、あまりにもパトリシア様の言動がオタクのそれになっている。いや、まだ淑女らしさはあるけれど、そう言うことじゃない。
「パトリシア様が染まっていますわ! メアリー様! パトリシア様の純情をどこまで奪っていますの⁉︎」
「その言い方は聞き捨てなりませんわよ!」
「パトリシア様が色々お聞きになるので、ついですね。真っ白なものは自分色に染めたくなるじゃあないですか。パトリシア様はほとんどヘンリエッタ様に染められていたので、まだ染めてない部分を狙ったまでです」
「わ、わたくしはヘンリエッタ様に染まっていませんわ!」
合間にパトリシア様が反論するが、お互いに耳に入らない。
ぐぬぬ、とお互いに火花を散らす。これって三角関係?
「ちょっと、お2人とも! 聞きなさい!」
「ではパトリシア様、選んでくださいませ!」
「そうです! 私は妹になるのですから、勿論私ですよね?」
「いいえ、わたくしと長い付き合いになりますもの! わたくしですわよね⁉︎」
「いえ、今はそんなお話では……」
「「パトリシア様!」」
先ほどまでの反省を彼方に投げ捨てメアリー様と共にパトリシア様に詰め寄る。
パトリシア様は返答に詰まっている。しかし、グイグイとわたくし達が近づくと、やけくそと言わんばかりに叫んだ。
「もう! 大切なお友達に優劣なんて付けられませんわ‼︎ 貴女方もそうでしょう⁉︎」
「「…………」」
パトリシア様の言葉に固まるわたくし達。涙目で睨みつけられているが、怖くもなんともなく、可愛らしさを感じてしまう。
ここでいつものように抱きつけば、今まで以上の雷が落ちることは必須。
そしてわたくしは謝罪をしたのにも関わらず、また暴走してしまった。
ここで一旦理性を取り戻さないと、いい加減にまずい。
大きく深呼吸して、気持ちを落ち着ける。
「パトリシア様、失礼いたしました。そうですわね。友人に優劣をつけようとしたわたくし達が愚かでしたわ」
「すいません、パトリシア様。つい白熱してしまいました。私もパトリシア様もヘンリエッタ様も大切なお友達です」
「ふ、ふんっ! 分かればよろしいのです!」
そんなあっさりわたくし達が引くと思わなかったのか、一瞬呆気に取られたパトリシア様。我に帰ると、ツンと顔を背けた。
うーんツンデレ。可愛い。
いけない、こんな心のうちがバレれば、また怒られてしまう。
「朝から仲良しだね。またクラスの皆を困らせているじゃないか」
その声に振り返ると、フレディ様とダニエル様が立っていた。
そして周囲を見渡すと、知らんぷりをしてくれつつも、顔を赤くしているクラスメイト。
いえ、何人か恍惚とした表情を浮かべているので、眼福なんて思ってそう。
「で、殿下、おはようございます」
「おはよう。君たちが仲良いのはとても良いことだけれど、もう少し場所を選ばないとね。特にヘンリエッタ嬢」
「おっしゃる通りですわ。こうなることを最初から予想してましたら、場所を変えました。これからは世間話以外は場所を選ぶようにします」
思いっきり名指しされてしまった。元凶はいつも通りわたくしなので、何も言えない。
と言うよりこういうのは何度目だ? 冷静に考えるとあまりにも回数が多い。
それはクラスの皆様も対処を覚えたり、逆に見れて嬉しいと見惚れる人もいるのだろう。
こちらを気遣ってくれるのは嬉しいけれど(敵に回したくないもあるとは思う)流石に申し訳ない。
「まあしばらくはそうしたほうがいい。……メアリー嬢、養女の件はまだ正式発表ではないから、大きな声で言わないように。このクラスは分別がついてるから良いけれどね」
「は、はい。申し訳ありませんでした」
殿下が小さい声でメアリー様に注意する。その指摘に、メアリー様は顔を真っ青にしてしまった。
確かにこのクラスは特進クラスで、主に殿下とのつながりを求めて勉学に励んだ者達だ。おいそれと殿下の周辺にいる人たちに不利な情報をばら撒く人はいない。それに一緒に授業を受けることで、一体感も出てきた。なのでそこは聞こえなかったふりをしてくれるだろう。今のように。
それでも、口を閉ざすべきところは閉ざすべきだ。暴走したわたくしもいけないので、フォローしないと。メアリー様だけでなく、わたくしが蒔いた種でもある。
しかし、わたくしが言おうとする前にダニエル様が、メアリー様に言った。
「安心してください。最速で準備を進めています。その時に外野がとやかく言ったとしても、私が守りますから」
「だ、ダニエル様……」
おおっ! ダニエル様、かっこいい!
顔を赤くするメアリー様。
うん、素晴らしいと思わず拍手してしまった。
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