準備をしましょう
なんとか家族の説得に成功した。特にお兄様は最後まで渋っていたけれど、最終的にお母様が宥めて引き下がったようだ。
ただ、最終的には
「へティと仲良くなれるような女性と結婚する‼︎」
と豪語していた。うん、正直に嬉しい。まだお兄様も恋していないからだけれど、わたくしを第一に考えてくれることは素直に嬉しい。順調にシスコンを極めてくれている。
わたくしもそれに応えてブラコンを極めよう。
あ、そうだ、それ以外にも動かなければ。
「お母様、わたくしパトリシア様と仲良くなりたいんですの。我が家でもお茶会など開いて招待したいですわ」
「あら、初対面の印象は最悪だと思ったけれど何かあったの?」
と言いつつお母様は楽しげだ。きっとわたくしが積極的なのが嬉しいのかもしれない。
「ええ、確かに初手喧嘩を売られましたが、冷静に考えるとこちらを気遣ってくださるものでしたし、何よりフレディ殿下に対する態度はとても可愛らしかったですわ。きっと言葉選びが良くないだけで、優しい子だと思います」
パトリシア様を応援したいです。と両手を握る。
「ふふ、そこまでいうのなら公爵夫人に連絡を取ってみるわ」
「ありがとうございます」
彼方から良い返事がもらえるといいな。そんな風に考えていた。
予想外だったのはその日の夕方にディグビー公爵家からお茶会の招待があったことだ。
お母様がニコニコしながら招待状を片手に持っていて本当に驚いた。
「今回はわたくしも招待されているの。だから一緒にいきましょう。パトリシア様も仲良くしたいと思っているのかもしれないわね」
「お母様がいるのならとても心強いです。それで、いつになりますか?」
「2週間後ね。ドレスもせっかくだから新調しましょう。明日、買いに行きましょうか」
「はい」
そして次の日。お母様とドレスを買いに来た。お母様が懇意にしているお店らしい。眼鏡をかけた、ザ・キャリアウーマンという女性が接客してくれる。
「ようこそお越しくださいました、アメリア侯爵夫人。本日はどのようなドレスをご希望ですか?」
「今日は娘のドレスをお願いするわ。ヴァネッサ、紹介するわね。わたくしの娘のヘンリエッタですわ」
「ヘンリエッタと申します。今日はよろしくお願いします」
この方はヴァネッサさんというらしい。アッシュグレイの髪をきっちり結い上げ、バイオレットの切長の瞳が意志の強さを感じさせる。シルバーフレームの眼鏡がとてもよく似合っている。
「お会いできて光栄です、ヘンリエッタ様。ヘンリエッタ様はどのようなドレスが好みでしょうか?」
「今日は日もあまりないから既製品をベースに少しアレンジしていただきたいと考えているの」
「さようでございますか。それでしたらこちらからヘンリエッタ様の気になるものをお選びください」
余計な世間話はせず、淡々とドレスの話になる。お母様は気にすることなく、希望を伝えドレスが並んでいるところへ案内された。
「お母様、わたくし今回も既製品のみでいいのですが」
「何を言っているのです。前回のお茶会を見て、へティはもっと磨くことができると確信しました。それに今回は公爵家との1対1のお茶会なのですよ? 前回のように大勢がいるわけではないのですから、中途半端な服装で行ったら失礼だわ」
「そういうものなのですか」
「ええ、そういうものよ」
そんな話をしていると、隣から微かな笑い声が聞こえた。見るとヴァネッサさんが笑っている。不思議と先ほどまでのピリッとしたかっこいい雰囲気が和らいでいる。
お母様はそんなヴァネッサさんに不満げにしている。
「まあ、ヴァネッサ。笑うなんて酷いわ」
「ふふ、申し訳ありません。しかしながらアメリア侯爵夫人も立派な母親なのだと思いまして」
「いつからあなたはわたくしのお姉様になったのかしら?」
「いいえ、姉というには烏滸がましい。けれど人の成長した姿というのは見てて楽しいものです。それはアメリア様もお分かりなのでは?」
「そうだけれど、自分がそう見られるのはなんだか複雑だわ」
いつの間にかヴァネッサさんの口調も砕けたものとなった。不思議に思い、二人を見比べていると。
「ふふ、ヴァネッサは学生時代からのお友達なのよ」
そう笑うお母様は少女のように無垢な輝きを放っていた。




