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転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど!?  作者: 水月華
4章

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びっくりすると感情が追いつきませんわ


 流石の陛下たちも驚いているのか、静かになった。

 わたくしは頭ごと抱きしめられているので、何も見えないから憶測になるけれど。

 それよりそろそろ苦しい。


「で、殿下……。苦しいですわ」

「あ……す、すまない」


 そう言って少し力を緩めてくれた。離してはくれないけれど。

 勢いに押されていたけれど、じわじわとこの状況を認識していく。

 フレディ様の状態を確認する。余程急いできたのか、その額には汗が滲んでいる。

 その常にない状態に、心臓が大きく音を立てる。

 しかもこの密着具合なので、フレディ様の匂いがダイレクトに鼻孔を刺激する。

 ほのかな香水の香りと、汗の混じった香り。全く不快ではない。むしろ落ち着く香りだ。しかし、落ち着く香りとは裏腹に、身体の熱は高くなっていくような感じだ。

 そこまででハッとする。今、この状態を楽しむ余裕なんてない。

 思いっきり流されたというか、突然のことに思考が追いつかなかったのは不覚だ。

 身体に篭り始めた熱を逃すように、軽く息を吐く。

 何とか身じろぎして、陛下やお父様を見る。

 お父様以外は面白いものを見つけたと言わんばかりの表情をしている。先ほど不機嫌にも見えたお母様も然り。

 お父様はこの世の終わりのような顔をしている。

 それを確認して、わたくしにとって良くない方向に行くことを察する。


「先ほどまで拗らせていると思っておりましたが……ヘンリエッタのいう通り、やるときはやるのですね。こっそり練習していた愛称で呼ぶなんて」

「あらあら。へティもまんざらではないですわね」

「ふむ。それでこそ我が息子である」

「あああああ…………へティィィィィ……」


 ちょっと、皆様好き勝手言い過ぎではないでしょうか。

 そろそろ離れよう。大人の生暖かい視線が痛い。

 そう思ってフレディ様の胸を押す。しかし、抱擁が逆に強くなってしまった。


「で、殿下……?」

「エッタ。これからエッタと呼ばせて欲しい。どうしても僕だけの呼び名が欲しかったんだ」

「それは嬉しいですわ。あの、それよりこの体勢は……」


 先ほども陛下たちに揶揄われて、恥ずかしがっていたフレディ様だ。この状態はフレディ様にとっても非常に不味いと思う。

 けれど、フレディ様は離そうとしない。


「殿下、落ち着いてください」

「名前で呼んでほしい、エッタ」


 フレディ様もしかして、だいぶ混乱されてらっしゃる⁉︎

 周りの状況を認識出来ていない可能性があるわ!

 これはある種の公開処刑だわ!


「落ち着いてください。ここは謁見の間ですわ」

「嫌だ」

「ええ……」


 誰か助けて。


「おほん。フレディよ、いい加減にしなさい。お前が来たせいで事態の収拾がつかん。ヘンリエッタ嬢も困っているだろう」

「お願いします、フレディ様」

「……」


 少し不満げな表情をしながらも、ようやくフレディ様は離してくれた。

 離れた体温に、寒さを感じて腕を擦る。


「まあ今日はここで解散だ。ヘンリエッタ嬢、これから頼む」

「っはい、陛下。それではフレディ様、また」

「ああ。……また学園で、エッタ」


 すごい甘い表情で言われた。撃ち抜かれたわ。

 廃人のようになっているお父様をお母様が引きずって、ようやく王城を後にした。

 馬車に乗り込んで、出発した途端、力が抜けてだらしなく倒れ込んだ。

 今更ながら、心臓がドキドキしている。フレディ様の様々な表情を思い出してしまい、落ち着くことができない。

 先ほどは驚きのあまり感情が動かなかったのだと思い知った。

 

「あら、へティ、大丈夫?」

「これが大丈夫に見えますか?」

「あらあら。これから大変だというのに、ここで根を上げていては問題ね」

「半分ほどはお母様のせいでもあるのですが」

「半分は言い過ぎではないかしら?」


 楽しそうに言いながらよく言う。


「王妃様とのやりとりでお腹が痛くなりましたが」

「だって、ヤキモチ妬くじゃない?」

「はあ……」

「へティがそれほど魅力的なのだから、誇りなさいな」


 そうは言うけれど、わたくしの魅力というより、わたくし若輩者を揶揄って遊ばれているようにしか感じない。

 大きくため息を吐くわたくしを、お母様は笑ってみていた。

 お父様はまだ現実に戻ってこない。これはお母様に丸投げしようと思考を放棄した。

 邸に帰れば、お兄様やトミーが聞きたそうにしていたけれど、それに付き合う体力が残っていなかったのでそそくさと部屋に逃げ込むことにした。

 きっとお母様がうまく説明してくれるでしょう。


 

 ◇◇◇



 謁見が終われば、この後の予定も自ずと決まる。学園では卒業パーティーの計画。

 邸では、筋トレに力を入れてる。綺麗な体、姿勢には筋肉が必要だ。見た目から相手に敵わないと思い込ませたいので、今まで以上に頑張っている。

 後はお母様にアドバイスを貰っている。それこそ相手からどう見られるか、相手の心理状態からどのように出るか、などなど。

 学業に色々忙しい。

 そして当然ながら、今回のことについて2年生、ひいては他の3年生から不満が出ている。

 至極当然のことではある。どう対処すべきかと考えていたら、お兄様とフレディ様があっという間に解決してしまった。

 今回不満の声があるのは、高位貴族の子息子女がほとんど。それも当然で、これでパイプを作ろうと考えていた3年生はいる。

 2年生は、いくら下級生にフレディ様がいるからと言って、蔑ろにしてほしくない。なんなら我々を参加させてほしいという思いがある。

 そこでお兄様とフレディ様はその中で特に影響力のある、子息子女を集めた。

 そして今回の騒動のきっかけを話して、協力を仰いだのだ。

 もちろん、陛下たちに相談してのことだ。

 そしてわたくしとフレディ様の婚約が内定していることも発表したのだ。

 そこが今回一番の問題点であり、誤魔化しようがないと考えたからだ。

 2年生の一部。3年生の意見を反映させると約束した上で、最後にそこに集まった人たちにいい笑顔で、


「今回のことはここだけの秘密に。特にこれが外部に漏れれば、我が国が遅れをとる可能性が高い。もちろん優秀な君たちだから、信用はしているけれど。もし外部に漏れようものなら陛下達の信用も失うことを肝に銘じておくように」


 お兄様が脅したのだった。

 今回話した人たちは、ちゃんと評判を調べた上である程度信用できると判断した人たちらしい。そして彼らなら同学年を抑えられると言うことも評価点だった。

 そして王家への忠誠も強いと。だからこその計画だった。

 もちろん、万が一を考えて露見した場合の計画も立てているらしい。

 わたくしは詳しくは知らない。なぜなら、わたくしは妃教育が前倒しで始まったのだ。

 これはパーティーでの妃としての貫禄を見せつけるためだ。ここでもうわたくしはここまで出来ている。いまから貴女達はわたくしをこえられるのかと言う圧をかけるためだ。これは王妃様の案だ。

 わたくしもそのほうが良いと思い、了承した。各国の情勢だったり、マナーなど。学ぶことは多岐に渡る。

 そのことを考慮して、こちらは任せてほしいとパトリシア様達に言われたのだ。

 頼もしい。確かに始まって実感したけれど、周りに気を配る余裕がないほど大変だ。

 大変だけれど、フレディ様のためにも必死で食らいついていく。

 学園ではパトリシア様やメアリー様が疲労回復にと色々世話を焼いてくれる。

 本当、たまに暴走するけれど、いい人たちだ。ありがたい。

 結局、フレディ様との練習は今の所計画されていない。理由は妃教育が始まったのと、王妃様が練習しなくても大丈夫だろうと言ったからだ。

 きっとあの時のフレディ様を見て、判断したのでしょう。

 そう言うことで、日々を過ごすのに必死になったことであっという間に時間は過ぎていく。

 気がついたら、色々と周りの環境が変わっていたことに驚愕することになる。

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