王族は仕事が早いです
陛下との謁見の件はお父様も知っていた。
やはりこう言ったことの仕事が早いな、と感心してしまう。
ここには先に帰っていたトミーもいて、家族全員揃っている。
「はぁ。全くどうしてこんなことになってしまったのか」
「今更言っても仕方ありませんわ。殿下がそれほど魅力的であると、誇らしく思っておきましょう」
「アメリアは流石だよ……」
お父様はかなりショックを受けているようだ。そうよね、家族大好きなお父様がわたくしが巻き込まれるとわかったら、逃げたくもなるわよね。
まあわたくしは逃げる気はないのですが。
「念のため聞きますけれど、近隣国がこちらを取り込もうとしているとかはないですよね?」
「まあ、それが目当てなら、もう少しマシな立ち回りをするはずです。今回はかなりへた……いえ、本心が隠せていないようでしたし」
「お母様、言い直す必要ありました?」
お兄様が質問すると、お母様が呆れたようにため息をつく。
そしてその内容がどちらにしても辛辣だ。
「とにかく、詳しいことは陛下から詳しく説明されるまで待つしかない。……が、ある程度はこちらで案を出した方がスムーズに事が進みそうだ」
「ええ。手をこまねいているのは性に合いませんもの。まあ、実際に行動するのはへティですけれど」
お父様の言葉に、お母様も賛同する。
わたくしたちも頷いた
「こういった時に後手に回るのは、相手を調子に乗らせてしまう隙にもなりますもの。淑女らしくを念頭に、完膚なきまでに叩き潰して差し上げましょう」
「まあ、とても好戦的ね。それでこそ我が娘だわ」
わたくしの発言にお母様は嬉しそうだ。
「淑女らしさか……。ううん。まだ妃教育は始まっていないから、そう言った面で押し出すのは難しそうだ。流石にあと半年もない状態で教育が満足に終わるとは考えにくい」
「父上にしては、姉上の努力を過小評価するのですか?」
「これは今まで例から考えた結果だね。いくらへティが優秀とはいえ、妃教育は全くの別物だ。どんなに優秀なものでも数年はかかる。内容の難しさだけではなく、量も夥しいものになるからね」
「そうね。わたくしもそう思うわ。半年で満足できるほど甘くないの」
「そうなのですか……」
トミーは驚いたようだ。わたくしもあまり詳しく知らない。そもそも妃教育の内容がホイホイ伝わっては意味ないだろうし。
「お父様とお母様は社交界で仲睦まじいアピールをするときはどのようにされているのですか?」
「えっ」
お父様は一瞬固まり、ついで顔を真っ赤にした。そんなに恥ずかしいことを聞いてしまっただろうか、と思ったけれどお母様が笑いながら教えてくれた。
「まあ、ふふ。なるほどね。わたくしたちはとにかくアレキサンダーが、鍵を握っていたわ」
「お父様ですか?」
「あ、アメリアっ」
「ええ。アレキサンダーはいかにわたくしのことを愛しているか、またわたくしの長所をたくさん言って回るのよ。そのおかげでアレキサンダーは愛妻家として有名なの」
お母様はいたずらっ子のように笑いながらいう。対するお父様は恥ずかしそうにして顔を両手で覆っていた。
「うう……。子供たちの前で暴露されるのは恥ずかしい」
「「「いつものことじゃないですか」」」
お父様の言葉に兄弟皆、思うところは同じだった。綺麗に3人が異口同音に発した。
その事実もお父様には強烈な一撃だったらしく、机に突っ伏してしまった。
「あらあら、あなたったら」
「お父様は家族関連になるとポンコ……いえ、溺愛っぷりがすごいですもの。当然でしょう」
「ポンコツ……」
「気のせいです」
聞こえていたか。誤魔化したけれど、ほぼ出てしまったものね。仕方ないわ。
「アレキサンダー、ちょうどいいわ。あなたの話を謁見の時に殿下にも話しましょう。決定でなくても、方法の一つにいいわ」
「え、それ、最終的に殿下とヘティだよね? ああ、目の前で娘が……」
「お父様、その言い方は誤解しか生みませんわ。それと、今はおそらく難しいかと。殿下とそのような話もしましたが、複雑な心境のようですので」
「そこはへティの腕の見せどころではなくて?」
「わたくしは殿下の意見も尊重したいですわ」
「そう。けれど複雑ということなら、絶対に嫌ではないのだし、意見の一つとして伝えてみましょう」
「はい」
それは確かにそうだ。まあ陛下がそれ以上にいい案を出してくれてもいいのだけれど。
他にも色々話しながらその日は夜が更けていった。
◇◇◇
そしてその週の学園が休みの日。
わたくしたちは王城に召集されることになった。
「思ったより早かったですね」
「それほど緊急事態ということだろう。厳しい目で見れば、我々と王族の間に亀裂が入りかねない。それを防ぐためにも、こまめにこちらに情報を流していたからそこは問題ないけれどね。早めにすることで、我々との衝突を避けようという狙いもあるのさ」
「なるほど」
お兄様とお父様が話しているが、わたくしは疲れ果てており横で菓子を食べていた。
疲れた時は甘いものに限る。
ちなみになぜこんなに疲れているのかというと、陛下に謁見するということで朝からそれはもう、磨かれたのだ。
正直、今までで一番気合が入っていた。本当に疲れた。これから謁見なのに。
お菓子も摘んでいるが、コルセットで締められているのでそろそろやめとかないと後が辛い。後一つと手にしたお菓子をちびちび食べていた。
横にいるお母様もいつもより着飾っている。かなり気合を入れてわたくしと同じようにされたはずなのに、疲労を感じさせないのは経験の差によるものか。
今回は対象ではないお兄様とトミーは、手持ち無沙汰にお父様に話しかけていた。
と、トミーと目がバッチリ合う。
トミーは残念そうに言った。
「僕も行きたかったですねぇ」
「こればかりはね。家族が全員いけば、流石に我が家を贔屓しすぎだと考えるものも出てくるでしょうし」
「わかってますよ。しかしその着飾った姉上を、殿下が独り占めするとは許し難いです」
「ぶれない……。そもそも陛下との謁見で殿下は二の次よ?」
「そうは言いつつも、普通なら婚約者同士ですし、二人になる時間は作るでしょう。ああ、羨ましい」
「本音が隠せていないわ」
「隠す必要あります? 家なのに」
「それもそうね」
トミーはもう吹っ切れている様子ではある。こう言いつつも、以前はあった陰りがないし、不用意にわたくしに触れようとはしない。
もしかしたら隠している可能性もゼロではないけれど、ここはトミーを信じるしかない。
「姉上は本当に綺麗ですねぇ。ずっと眺めていたいです。可能なら閉じ込めたいです」
前言撤回だ‼︎ 普通に危ういことを考えてる!
やっぱりまだまだ吹っ切れたなかった。うん、普通よね。まだ半年どころか3ヶ月も経ってないもん!
「あらあら、トミー。へティの魅力は外に出てこそではない?」
「そうですね。けれどその魅力が外に出て、不埒な輩の視界に収まるのが許せません」
「ふふ、そこは殿下の努力次第ね」
「やってもらわないと、夜道には気をつけろって忠告したくなります」
「ええ。常識の範囲内で、どんどんやりなさい」
お母様、トミーをけしかけないでください。いえ、これもトミーはそうは言いつつ、やらないとわかっているからこそなんでしょうが、こちらはとてもヒヤヒヤしています。
普通に会話だけでも不敬罪ではないでしょうか⁉︎
「トミー、流石に言葉は選んだ方がいいと思うわ」
「これでも選んでますよぉ」
「それはそれで心配しかないのだけれど」
選んだ結果、暗殺しますよ的なこと言いますか。
あとなんで今日声が間伸びしているんだろう。もはや先ほどの発言も相まって怖すぎる。
「大丈夫よ、へティ。トミーがへティにとって不利になることをするはずがないわ。ただ、今日は心情が荒れているだけで」
「それ、余計に安心できません」
間伸びした声って、感情を抑えてます?
拭えない不安が出てきてしまった。
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