わたくしの思いを伝えます
「わたくし、今のところ結婚に対する憧れとかありませんの。もちろん家のための政略結婚を拒否するつもりはありませんが、自分で選んでいいということでしたらわたくしは誰も選びませんわ」
皆ポカンとしている。それはそうだろう。
普通なら恋愛結婚に憧れを抱くだろうから。
近年は貴族は絶対に政略結婚だ、という風潮ではなくなっている。もちろん双方の利益のためや、領地などの安寧のために結ぶことも全くない訳ではない。
特に上の階級はまだまだ政略結婚の風潮は強い。我が侯爵家も出来れば強い繋がりを持ちたい家もあるだろう。
だから、お父様が望むのなら拒否はしない。もちろん悪役令嬢ポジションの可能性もあるので出来れば避けたいのだけれど。
お父様はわたくしが冗談で言っているのではないと感じたのか、表情を引き締めた。
「そうか、私はへティに政略結婚をしてもらおうとは考えていない。とはいえ、平民に嫁ぐと言われたら反対してしまうかもしれないけれど……。とにかくへティが望まない結婚をさせるつもりはないよ。私は皆の幸せを考えているからね」
「ありがとうございます、お父様」
すると、お母様が言った。
「ふふ、へティはずっとここにいたいのかしら? もちろんそれは嬉しいけれど、恋愛も良いものよ?」
「そうですね。あくまで今は、ということですわ。けれど、ずっと邸にいようとは思っていませんの。将来、お兄様が結婚するときに妹がいてはお嫁さんが嫌がるかもしれませんもの」
笑いながらいうと、また皆が呆けた表情になる。まあ、普通に考えたらそうかもしれない。
「へティ、そうしたらどうする気なんだい? 結婚せずに家を出るなんてことは無理じゃないか?」
お兄様が言う。もちろんそれについても考えがあった。
「魔術師になろうかと考えていますの。それならば就職先で寮暮らしができますから」
そういうと全員目が溢れんばかりに見開いた。まあ、それはそうだろう。貴族女性が独身で働くなんてそうそうあることではない。しかし、前世では一人暮らしもしていた、はず。家事が大変だった記憶があるから一人でやっていたはずだ。流石に細部は思い出せていないから確実ではないけれど。
「そんな、それは流石に……。そうだ、僕の婚姻相手が気になるなら、そもそもそれを受け入れてくれる相手を見繕えばいいんだよ。へティが気にすることなんてないよ」
お兄様がシスコン全開な発言をする。その言葉は嬉しいけれど、相手のことを考えるといただけない。
「お兄様、そんな方に出会えるのは難しいでしょう。確かにこちらの家に入っていただくことが第一条件ですが、だからこそその人にとって過ごしやすい環境を整えることが1番ですわ」
「うっ……」
お兄様は目を左右に動かしている。そしてお父様とお母様に助けを求めるような目を向ける。いや、可愛いな。大人びたと思っていたけれど、まだ年相応な所が見れて嬉しい。
お母様が苦笑しながら助け舟を出した。
「まあまあ、まだ結婚なんて先の話ですし、そこまで結論を急がなくていいわ。もしかしたらへティに好きな人ができるかもしれないし、アルの婚約相手と仲良くなって一緒に暮らしたいと言われるのもないとはいえないのですから」
「そうですね。話を戻しますが、わたくしは今の所結婚する気はありません。将来は魔術師になって自力で生活していきたいと考えています」
「ああ、わかったよ。今のところは、だね」
含みを持たせて言うお父様。わたくしは頷く。そこまで否定する気はないし、わたくしが悪役令嬢ポジションでなければ問題はない。
この間、トミーはずっと黙っていた。何かを考え込んでいるようだ。
トミーはまだ10歳だし、あんまりピンと来ないのかもしれない。その時のわたくしはそう考えていた。




