予想外のイベント発生です
「え? 今年は在校生も卒業パーティに参加するんですか?」
「ああ。といっても、流石に全員というわけにはいかない。成績、素行不良のものは参加できないけれど」
「確かに我が国の汚点になり得ますから、そこは納得ができます。しかし、なぜわたくしたちが呼ばれるのですか?」
そう、今は生徒会室にいる。生徒会長であるお兄様に呼ばれたのだ。
そして言われた言葉に、思わずわたくしが大きな声をあげてしまった。いけない。これはフレディ様やダニエル様が聞くべきことなのに。
まあもう声に出してしまったのものは仕方ないので、そのまま会話を続けた。
招集されたメンバーはいつものメンバーだ。つまりフレディ様、ダニエル様、トミー、パトリシア様、メアリー様がいる。
今までなかった、会長命令で呼ばれたので不思議に思っていたら先ほどのことを聞かされたのだ。
一体、なぜ?
「そうだよね。2年生誰も呼ばれていないし。でもこれは私が決めたことじゃないんだよ。うん、学園長とかその辺りからね」
「は、はあ」
なんだかお兄様が目を虚にして言ったので、結構理不尽を言われたのかもしれない。
お兄様の話では、学園長から急に呼び出されて言われたとのことだ。
そしてその学園長は陛下から。陛下は、近隣の国に言われたらしい。
その内容はフレディ様を卒業パーティに参加させてくれないかと。
まあつまり、元を辿ると近隣の国からの無茶振りというわけだ。うん、陛下も学園長も被害者だ。
一番の被害者はわたくしたちになりそうだけれど。話を聞いて、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
「まあそういうわけで、殿下と仲のいい君たちと一緒にパーティの計画を立てよう」
「もうすでに決定事項ですか。拒否権なしですね」
2年生が呼ばれていない理由はフレディ様と親しい人がいないからか。
なんだか後で色々言われてのおかしくないな。絶対に文句が出てくる。その対処は学園長がしてくれるのだろうか。
してくれないと困るのだけれど。こういう時に立場が上のものが矢面に立って欲しい。
いや、もしかして高位貴族、しかもフレディ様の側近候補や婚約者候補だったパトリシア様もいる。自分達で対処できるほどの力はないとダメだろうと、助けてくれない可能性もある。どっちだ。後者は十分に考えられる。
「すまないね。なんだか巻き込んでしまって」
「殿下のせいではないでしょう。それに原因は近隣国ですし」
「はい。いくら殿下が優秀だからって、アルフィー様たちを蔑ろにしているようであまり好ましく感じませんわ」
フレディ様が謝るので、すぐにフォローする。一緒にパトリシア様も同意を示してくれた。
本当にパトリシア様のいう通りだと思う。今までの慣習を破るだけでなく、今年の卒業生、それに2年生も蔑ろにするとは。
「それは陛下も難色を示していたらしい。けれど多勢に無勢だったらしくてね。流石に断りきれなかったということだ。どんなに聡明な方でも、数には翻弄されると言うことだね。なかなか深い」
「……その話ですが、公爵家にも話が来ていましたよ。どうやら殿下の評判が良く、自分の娘が妃になりたいからなんとしてでも接点を持ちたいと、令嬢たちのわがままを叶えるために今回のことが提案されたと」
「はい?」
お兄様から続くダニエル様の話に、思わず声が出てしまった。
そういうこと? ちょっと……品性を疑ってしまう。自分の周りを巻き込むな。そのご令嬢たちは自分のわがままがどれほどこちらを振り回すのかわかっているのだろうか。
「……嫉妬よりも先に、周りのことを考えるヘンリエッタ様はさすがですね」
「ええ。言葉に出ていなければ100点だったかしら」
「え、声に出てました?」
「バッチリ出てました」
メアリー様とパトリシア様に言われて自覚した。いけない。ここは外、学園。邸にいるときより気を引き締めないと。
「まあそれでね、陛下もこれには御立腹でね。こうなったら殿下とへティの相思相愛ぶりを見せつけて、自尊心を木っ端微塵に砕こうと考えたそうだ」
「え」
「あら」
「なるほど」
上からメアリー様、パトリシア様、わたくしの反応だ。
このメンバーしか呼ばれていない最たる理由はこれだろう。
「ああ、陛下も周りから言われて断れなかったのを悔やんでいてね。きっと後ほどヘンリエッタ嬢は呼ばれると思う。ただ私はこのやり方に賛成ではないのだけれど」
「あら、なぜです?」
「ファっ⁉︎」
陛下との謁見が予定されているとフレディ様から言われる。そんなこちらなんて気にしなくていいのに、お優しい方だ。
けれどそれより、フレディ様がわたくしとのいちゃ……相思相愛ぶりを見せつけるのは反対だとは。
結構いい作戦だと思う。礼儀知らずな令嬢の心折れるし、うまくいけばそれを盾として、外交のカードに使えると思うのだけれど。
それにしてもフレディ様、聞いたことない声をあげたな。そんなにわたくしの言葉が予想外だったのかしら。
「もしかして予め、殿下の妃に推薦されている令嬢がいるのですか? 確かにその場合は陛下にも不利な状態になりますわね」
「え? え、いや。そうは言われてない。流石に向こうもそう言って受け入れてもらえるとは思っていないから、別の方法だったらしい」
「では、問題ないのでは?」
「……」
あれ、フレディ様が固まってしまわれた。
固まってしまったフレディ様の肩に、トミーがポンと手を置く。
「なにこの程度で固まっているんですか。姉上はこのくらい序の口ですよ」
「……いや、これは、誰が想像できる?」
2人でコソコソ話していますが、丸聞こえですよ。
今回はわたくしが発案したわけではないのに、なぜこの仕打ち。
「ははあ。こうなるのですね。いやぁ、面白いです」
「気持ちはわかりますわ。ええ、どうなるのでしょうか」
「ヘンリエッタ嬢、自分がなにを言ったか理解しているのでしょうか?」
「もちろん、へティはちゃんと分かっていますよ。ふふふ。これは殿下は苦労しそうだなぁ。僕ら家族でもタジタジになるから、殿下がどう対処するのか見ものだなぁ」
「あなたたち兄弟が一番楽しんでますね……」
メアリー様とパトリシア様。ダニエル様とお兄様まで好き勝手言っている。
あれか、人目を憚らずスキンシップをとっていたことがあるからですね。
「ですが殿下の意に背くことは仕方ありませんし、別の方法を考えた方がいいでしょうか」
「嫌じゃない!」
「…………」
「あ、いや、これはちがっ」
夏休みのときのフレディ様も、ここまで狼狽えていなかったと思う。
顔が真っ赤だ。
そして無言で見つめる皆の視線に耐えられなくなったのか、必死に弁明している。
うんうん。こう見るとやはりフレディ様も年頃の男の子だな。
なんて頷いていると。
「おおっ。殿下はグイグイ行く狼系男子だったんですけれど、自分より上手の人には純情系男子になるんですね! 素晴らしいギャップです!」
「ああ、ヘンリエッタ様も頷いているし、メアリー様の言うことがなんとなくわかってしまいますわ……」
「君たち! 好き勝手言い過ぎじゃないか⁉︎」
「わあっ。そんな風に照れ隠しする殿下! SSRです!」
「SSR?」
「スーパースペシャルレアの略です! 100回に1回……いえ、1000回に3回くらいの頻度などで、とても珍しいことなんです!」
「確かにここまで狼狽える殿下を見たのは初めてですわ」
「ああ、2人もヘンリエッタ嬢に似てきている……」
パトリシア様とメアリー様に勝てないと思ってしまったらしいフレディ様は、がっくりと肩を落とした。
気の毒だけれど、確かに珍しいものをみれたと嬉しい気持ちになってしまった。
きっと他の男性陣も同じ気持ちだっただろう。




