本当の目的が分かりました
すった揉んだのお茶会が終わった翌日。朝食の席で昨日の話をお父様とお母様に聞かせた。
「パトリシア・ディグビー嬢か……いやはやへティは意外とケンカっ早い一面があったんだねえ」
「あらあなた、ここで弱々しい態度を取ればこれから他の貴族にも下に見られることもあるかもしれないわ。女の世界は怖いんですのよ?」
お母様はどこか誇らしげだ。お母様の助言を役立てることが出来たからかもしれない。あの時、パトリシア様の動きに注目できたのは、お母様のおかげだ。聞いてみれば、なんとなく聞き覚えのあるものだった。
――行動心理学――
前世でそう名前がついていた、人が無意識におこなっている行動から感情を読み解くものである。人間、表情は誤魔化せても、無意識のうちに出てしまう行動はなかなか制御できないものである。
お母様はその行動から相手の心理状態を読み、的確な言葉を投げかけていたという。
その後もお茶会での話が続く。とりあえずお母様からも人前ではむやみに抱きつかないように、と言われてしまった。
思わずシュンとしてしまうと、トミーが邸の中でお客様がいない時なら良いです。と言ってくれ、喜んだ。
お兄様とお母様が少し呆れていたけれど、本人がいいというならいいだろう。きっと数年後には向こうが嫌がってできなくなるから。
そして話は殿下の話になる。
「フレディ殿下はどうだった? 私もたまに城での仕事の時に会うことがあるが」
「とても聡明な方と見受けられますわ。確かに皆様が羨望の眼差しを向けるのも納得できますわね」
当たり障りない答えを返す。嘘ではないし、問題ない。
「パトリシア様は、きっとお会いする前から殿下を慕っているのでしょうね。あの時のパトリシア様は完全に恋する乙女でしたし、とても可愛らしかったです」
「そうなんだね。へティはどうだい?」
その言葉にピンときた。昨日のパトリシア様の意味ありげな言葉、集められたメンバーの意味。
名だたる貴族の家の令息令嬢が集められたということは。
「……もしかして、昨日の集まりは将来の側近、婚約者候補の選定ですか?」
「ああ。そう考えてもらっていい」
なるほど。そういうことだったのか。やはり建前は同年代の子供たちとの交流と言っていたが、あそこである程度篩にかけられるということか。
お父様を見ると、少し期待するような表情をしている。わたくしが王家に嫁ぐことがあれば、この家ももっと格式高いものになるだろう。
しかし。残念だがお父様の期待には応えられない。やはり、わたくしが悪役令嬢ポジションであることの明確な否定ができないからだ。
そう考えると、パトリシア様も悪役令嬢になりそうではある。もしかして、パトリシア様の取り巻きにわたくしがなることもあるのかしら。
もう少し、情報を得ないとこの辺りはわからない。
それは置いといて、フレディ殿下のことを言わなければ。
「そうですねぇ……。確かに素敵な方だとは思いますが、わたくしは特に恋情はありませんわ」
「え」
お父様はびっくりしている。なんならお母様もお兄様もだ。トミーだけは無表情だけれど。
ちょっとずるい作戦を取らせてもらおうかな。
「もちろん、お父様が政略で殿下と婚姻を結んでほしいというのならば、努力いたしますわ。しかし、パトリシア様のことを考えると、なんとも思っていないわたくしよりも恋情を抱いているであろうパトリシア様の方がよろしいかと思います」
そして、パトシリア様のあの表情を見て、改めて思ってしまった。
わたくしは恋愛なんて面倒臭いなぁ、と。
前世の最後の元彼がどうしても頭をよぎってしまう。仮にも一国の王子なのだから、大切にしてくれるんだろうけれど。
アイツも最初はいい奴だった。けれど付き合ってからの豹変ぶりと言ったらひどいなんてものじゃない。
本当にわたくしの暗黒期と言える期間だったろう。
だからお父様にはわかっていただきたい。そのためにも思っていることを吐き出そう。
わたくしは大きく息を吸い込んだ。




