まずは問題点の提示ですわ
ダニエル様の計画は、とても普通だった。
いい意味で言えば、誰も文句が出ない。悪い意味でいえば、個性が無い。デートと言えば、思いつく普通の計画だった。
まず観劇を見にいく。終わったら食事という流れ。最後に買い物をして帰る。とても優等生らしい、デート計画だ。
「ど、どうでしょうか?」
「悪くはありませんわ。けれど、ひねりがないと言いますか」
「ひねり」
「はい。初デートですので、奇抜なことをやる必要はありませんわ。だからこそ、自分と相手を考えたデートが良いと思います」
わたくしの言葉に、ダニエル様が考え込む。パトリシア様も考えているようだ。
「ちなみに、こちらは何を参考にされましたの?」
「……殿下や、アルフィー殿です」
「ああ、もしかしてわたくしたちと別れたあの日ですか」
「はい」
「となると、本当に貴族令嬢とのデートですね。ちなみに観劇の内容や、食事の場所、お買い物をする店は目星をつけていますか?」
「観劇は今流行している、恋愛ものです。食事の場所は貴族街の有名店。買い物はアクセサリー店……」
「お待ちください。それ、メアリー様がどう思うか考えておりますの?」
最早最初で突っ込みたくなってしまったが、最後まで聞こうと堪える。
しかしダニエル様が言い終わる前に、パトリシア様が声を上げた。
「だ、駄目でしょうか」
「駄目ではありません。ええ、例えばわたくしやパトリシア様でしたら何の問題もありませんわ。けれど、ダニエル様。メアリー様のことを考えてください」
「メアリー嬢のこと……?」
困惑の表情を浮かべるダニエル様に、パトリシア様が詰め寄る。
「そうですわっ。ダニエル様、メアリー様が高級レストランに連れてかれて、喜ぶでしょうか? ジュエリーを見て、目を輝かせるでしょうか?」
「じょ、女性は喜ぶのではないのですか?」
「……ちょっとお兄様にも殿下にも、後でお説教してきますわ」
「ヘンリエッタ様、しっかりお2人の手綱を握ってくださいまし。“女“という括りで見ている内容が、あまりにも酷すぎますわ」
「え? え?」
ダニエル様は何がいけなかったのか、本当に分からないらしい。
これだからツンデレメガネキャラは!
「いいですか、一つずつ確認していきましょう。ダニエル様から見て、メアリー様はどんな女性ですか?」
「え、えっと。最初は元平民の男爵令嬢ということで、特待生になっていることに驚きました。それほど向上心のある方なら堂々としているのかと思いましたが、自信のなさげな姿が印象的でした」
意外と最初から興味があったのか。
「気がついたら、貴方達と仲良くなっていて。それにも驚きました。伯爵家にすら怯えている彼女が、高位貴族筆頭の貴女達と仲良くなれるなんて思っていませんでしたし」
「あれはわたくしたちが囲い込みましたから」
「ヘンリエッタ様、言い方が悪いですわ。あながち間違いとも言えないですけれど」
「いいえ。貴女達の対応は素晴らしかったと思います。それから、魔物襲撃事件のことからちゃんと接してみたら、また印象が変わりました」
「そうでしょうね」
あの初期の挙動不審っぷりは、今までの印象をガラリと変えるものだろう。
「最初は私の対応が悪いと思っていたのです。女性の扱いがよく分からなくて、昔から怒らせてしまうことも多かったですから」
「とても簡単に想像が出来ますわ。普通のご令嬢では、ダニエル様と相性が悪い方が多いでしょうね」
「ヘンリエッタ嬢、もう少しオブラートに包んでください。私も多少は気にしていたんですから」
「あら、失礼しました」
「……まあ、殿下への対応も同じ様な感じだったので、消極的な方だと判断しましたが」
「そうですね、間違いではありませんわ。彼女は貴族に対して、一線を引いていましたし。特に殿方と親しくなれば、周りが敵だらけになることは想像に難くありません」
「そういうこともあるだろうと思い、私もあまり自分から関わろうとはしませんでした。あの予言めいたものも、私は正直信じていませんでしたし」
「それは普通のことかと思います」
「けれど少しずつ共にいる時間が長くなって、認識を改めました。それこそ、ヘンリエッタ嬢には感謝もしていますね。貴女のおかげで肩の力が抜けましたし」
「あら、わたくし、何かしましたっけ?」
本当に覚えていない。そんな特別なことをした覚えはない。
「ええ。それはもう、これでもかと揶揄ってくれましたね」
「え、あれでですか?」
「自分でも驚いていますが、そうです。吹っ切れたと言いますか」
「ヘンリエッタ様は本当に嫌がることはしませんものね。一種の荒療治だったのでは?」
「そんな感じですかね」
「最終的に、ダニエル様の為になったのなら良かったです。ってわたくしの事ではなく、今はメアリー様ですわ」
あれはどちらかというと、懐かない猫を懐柔しているような感じだった。これは黙っておこう。
そう思いながら、話題を戻す。
「あ、はい。……そうですね、最終的には奇行に走るメアリー嬢から目が離せなくなったといいますか……。後は私を見る目が、邪なものが無かったというのも大きですね」
「奇行……」
「はい、地面を転がったりとか」
「まさかの“おもしれー女“枠⁉︎」
「何言ってますの?」
パトリシア様が、わたくしを不可解なものを見る目で見ている。これは前世であった言葉なので、分からないのも当然だ。
まさかダニエル様が。いや、確かに眼鏡のツンデレキャラ、将来の宰相候補ということもあってダニエル様は頭脳派だ。
テストも5位以内に入っていたはず。それは今はいい。
その頭脳派が自分の想像を超える行動を店つけられて、興味を持ったと。
その始まり方は予想外だった。
「面白くなってきましたわっ」
「え、えっと、ヘンリエッタ嬢?」
「ヘンリエッタ様、落ち着きなさい。今は、メアリー様のことですわ。それはまた追々聞きましょう?」
「くっ。仕方ありませんわね。時間も迫っていますわ。ここはまたの機会にするしかありませんわね」
「ほっ……」
ダニエル様が分かりやすく、ため息を吐く。ふふ、それで逃げ切れたと思うなよ。
「コホン、そんな普通と少しズレているメアリー様ですわ。普通で対応できるものではありません」
「なるほど」
「時にダニエル様。恋愛ものの何か、観劇でも小説でも読んだことはありまして?」
「いいや。あまり興味が湧かなくて」
「それなのに、メアリー様とそういった観劇を観ようと?」
「う……。しかし、どの様なものが」
「ヒントを出しますわ。メアリー様は恋愛に興味はあります。そういった意味では、恋愛ものを選ぶのは正解ですわ。しかし一方が興味がないものに、心から楽しめるとお思いですか?」
ダニエル様は目を見開く。少し考えて言った。
「いや、楽しめないな。逆に彼女であれば、気を遣いそうだ」
独り言のようになって、言葉遣いが変わる。それほど思考に集中しているのだろう。
「それともうひとつ。彼女は元平民です。見下しているなどではなく、これはただの事実です。彼女のことをよく考えてください。高級レストランやジュエリーショップへ行って、どの様な反応をすると思いますか?」
「……喜ばないだろう。嫌いとかではなく、遠慮してしまうと思う。自分には似合わないと断りを入れても不思議ではない」
うん、ちゃんとメアリー様を見ているな。
「その通りです。ここで外したら、協力を辞めるところでしたわ」
「……なるほど、本当に的外れなことをしていたな」
「大外れではありませんけれどね。さあ、問題が見えたところで、また考えましょう」
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