ダニエル様はどうするでしょうか?
「けれど、これではメアリー様の参考になりませんわ」
「本当に難しいですわ。わたくしも明確なものはありませんし」
「いや、私のことは」
「「今考えます」」
「あ、はい」
またパトリシア様と重なった。勢いが強かったのでメアリー様が折れる。
わたくしのように側から見たら明らかにわかるのなら、強硬手段を取ることも考えるけれどメアリー様は少し違う。
「ここはダニエル様次第になりそうですわ……」
「それはあまりにも他力本願ではありませんか?」
わたくしの言葉に、パトリシア様が言う。
「それはそうですが、そもそもわたくしたちは部外者となりますよ? それこそ、人の恋路に首を突っ込んでいるようなものです」
「う」
「人に言われて恋人になるとか、結婚するとかはナンセンスですわ。本人たちの意思を尊重しないといけませんし」
「ヘンリエッタ様、さっきと言ってることが二転三転していませんか⁉︎」
「自覚はしております。けれどいろいろ考えると、積極的に首を突っ込んではいい方向に行かない気もするんです」
「た、確かに……」
わたくしの言葉に、メアリー様はほっとした表情になる。
けれどさらに続いたわたくしの言葉に、再びオロオロすることになる。
「とはいえ、積極的に首を突っ込まないということですわ。相談されたら全力で応えるのが、最善の道かと思いますの」
「そうですわね! そう言われますと、今の状態ではダニエル様次第ということになりますわ」
「え」
「そうでしょう? ええ。わたくしたちはヤキモキしてしまいますが、ここが肝かと思いますの」
「わかりましたわ」
「ど、どうしてこんなことに」
「メアリー様、今日はそういう日ですわ。先ほどから“どうしてこんなことに?“とはわたくしも何度も思っております」
「あうう」
わたくしの言葉にメアリー様が崩れ落ちてしまった。
「そんなに身構えることもないでしょう? メアリー様は自分のしたいようにすれば良いのです。それでどのような道を選んでも、わたくしたちは味方ですわ」
「パトリシア様のいう通りです。メアリー様はわたくしの時も、味方になってくれたでしょう? 同じですわ。わたくしもメアリー様が後悔しないのなら、全力で支えますわ」
「お2人とも……。はい、分かりました」
なんとか全員が納得できる終着点を見つけられて良かった。
色々考えることがあるな。けれど、大変という気持ちはなく、ただ皆がどうなるか楽しみだった。
「それでは、名残惜しいですがそろそろ解散しましょうか」
「まあ、こんなに時間が経っていたのですね」
「たくさんお話しできて、楽しかったです。本当に色々ありましたが」
久しぶりに3人で話をして、盛り上がったためか気がついたらもう日が暮れて始めていた。
明日も学園なので、今日はここで解散することにした。
地理的にはディグビー公爵家とキャンベル男爵家の間に、スタンホープ侯爵家があるのでディグビー公爵家の馬車に乗せてもらい、帰宅することになった。
その間もなんだかんだ話が弾む。けれど時間も限られているので、わたくしがお土産に用意したブレスレットの話だった。
「このブレスレット、本当に綺麗ですね。光が当たると、程よいキラキラでずっと眺めていたいです」
「ええ。安価とはいいますが、細部にまでこだわっているのが伝わってきますわ」
「お母様がお勧めしてくれたのです。昔からのお気に入りということで、お店も光の当たる角度を調整していて素敵でした」
「いつか行ってみたいです!」
「来年でも行きますか? その時の都合にもよりますが」
「良いですわね。お互いの状態がどうなっているか、想像できませんが是非わたくしも行きたいですわ」
「それでは、行けるように頑張りましょう」
「はいっ」
1年後、わたくしたちはどうなっているのだろう。
未来に思いを馳せるなんて、そういえばして来なかったな。とても、幸せだな。
◇◇◇
数日後。わたくしの周りで、動きがあった。
ダニエル様が、わたくしとパトリシア様に話があると言ってきたのだ。
メアリー様が別件で席を外しているところを狙ったということは、そういうことであろう。
二つ返事で了承し、また時間を作ることにした。
いつもわたくしたちは3人で行動しているので、メアリー様がいないタイミングを狙うのは難しい。どうすれば良いか悩んでいると、フレディ様が何とかすると言ってくれた。
「私の為に恐縮です、殿下」
「何を言っているんだ。ダニエルには貸しがあるからね。同じように悩んでいるのなら、力になりたいんだ」
「けれど殿下、殿下が動くのは中々難しいのではないのですか? 嫌な噂が立つこともあり得ますわ」
パトリシア様の心配は最もだ。特にわたくしたちの婚約は公然の秘密となっている。
そのこともあって、パトリシア様は心配してくれている。
「心配ないよ。私は動かなければ良いのだからね」
「ああ、そういうことですか」
「まあ職権濫用だね。明日で良いかな?」
「わたくしたちは問題ありませんわ」
「私も問題ありません。お2人も、ありがとうございます」
そんな会話をした次の日。メアリー様は放課後に教師に呼ばれたということで、わたくしたちと別れた。
フレディ様、確かに教師を使うのは安全ですが、些か別の問題が浮上してしまうと思います。
職権濫用とは言っていたけれど、これは濫用が過ぎるのではないのでしょうか。
なんて言いたいけれど時間は限られているため、ここは目を瞑ることにする。
こうして染まっていくんだな、なんて思った。
「じゃあ後は頑張って」
「はい、ありがとうございます」
フレディ様とダニエル様がそんなやりとりをして、フレディ様は去っていった。
話がしやすいようにと、空き教室も用意しているので抜かりがない。
恋の相談でこんなことをして良いのだろうか。そう思っていたのは、わたくしだけではなかった。
「職権濫用だとは仰っていましたが、ここまでしますのね」
「使えるものは使わないと、好機を逃すことになりますからね」
パトリシア様の苦言に、ダニエル様は首をすくめる。
「まあ、言いたいことはたくさんありますが、時間がありません。本題に入りましょう」
「ありがとうございます」
「先に確認しますわ。ダニエル様はメアリー様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」
「……好ましいと思っています」
「貴方のことですから、色々考えた末のことなのでしょう?」
「はい。色々難しいことはありますが、彼女と近しい仲になれたらと。それで、以前お話ししていたお礼を含めて、その……」
パトリシア様の質問に答えつつ、少し顔が赤くなるダニエル様。
本当にダニエル様は、メアリー様に傾いているな。しかし中々自分のことを話すのは、性格も相まって恥ずかしいのだろう。
それでもここで照れて止まるようでは心配だ。頑張れ。
「…………デートに誘いたいのです。……お2人とも、拍手をするのは止めてください」
「ごめんなさい、つい。パトリシア様まで拍手するとは思いませんでした」
「わたくしも気がついたら……。ダニエル様の性格を理解しているからこそですわ」
だって頑張ったら、褒めたくなるものでしょう?
「ゴホン。それで私は女性の扱いが分からないものですから、お2人の意見が聞きたいと思いまして」
「そういうことならお任せくださいな。メアリー様の好みはある程度把握していますし」
「まずは計画はどのようなものを想像しています? そこからアドバイスさせて頂きますわ。こういうのは、ダニエル様の考えも反映することも大事ですのよ」
「……お願いします」
わたくしたちの勢いに、少し怖気付きながらも覚悟を決めたダニエル様。
ぎこちないながらも、話し始めた。




