お兄様と話しましょう
その後はフレディ様と、何回かに分けて会話をした。
おかげで色々お互いを知ることが出来て、とても充実した時間を過ごすことができた。
そしてフレディ様は、わたくしたちよりも一足早く王都に戻ることになった。
「楽しかったよ。どうもありがとう」
「こちらこそ、とても楽しかったですわ」
馬車に乗る前に、皆でフレディ様を見送る。
「王都に帰るとお互い忙しくなる。環境も変わって大変なことも多いと思うが、どうか一人で抱え込まないでほしい」
「ありがとうございます」
「殿下、そうは言いつつも言いづらいこともあるんですから、ちゃんと気を配ってくださいね。姉上は頑張りすぎる傾向もあるんですから」
「ああ。肝に銘じておく」
トミーがまるで保護者のようなことを言っている。
心配なのはわかるけれど、少し恥ずかしい。
「ああ……トミーにお株を奪われてしまった」
「アル、嘆かないの。なんだかんだ、あなたも成長しているわ。トミーの方が上手だけれど」
「上げて落とさないでください、母上……」
フレディ様が帰ったら、さすがにお兄様と話をしよう。なんだか日を追うごとに落ち込んでいるように見える。
「アルフィー、今回はあまり話が出来なくて申し訳なかったね」
「いえ、殿下が謝罪する必要はございません。全ては未熟な私が招いた種ですので」
「いいや、それでもアルフィーが私とヘンリエッタを心配していたのは知っている。今度、王城で改めてお礼をさせて欲しい」
「もったいなきお言葉です」
フレディ様の言葉に、お兄様は少し上向きになったらしい。こういうことも気遣えるのもさすがだな。
「それでは殿下。道中お気をつけて」
「ああ。次に会うときは、関係も少し変わっているだろう。楽しみにしている」
お父様がフレディ様と握手をしている。そろそろお別れの時間だ。
とはいえ、夏休みももうすぐ終わるので、またすぐに会える。
フレディ様は馬車に乗り込み、出発する。
馬車が見えなくなるまで、わたくしは手を振り続けた。
◇◇◇
「さあ、我々も近々帰る準備をしないとね」
「ええ。名残惜しいけれど」
お父様とお母様が言う。そしてトミーも交えて、邸に戻っていった。
残ったのは、わたくしとお兄様。
「お兄様、少し話しませんか?」
そう誘って、お兄様は頷いてくれた。
あと少ししかここに居れないので、せっかくだからと散策しながら話す。
「お兄様、この夏休みの間、きちんと休むことは出来ていましたか?」
「いや。実を言うと休むことはしていない。父上の仕事の手伝いももちろんあるけれど、自分が不甲斐なくて休むと逆に色々考えてしまっていたんだ」
「そうなのですか? お父様もお母様もトミーも、皆厳しく接していたように見えたのですが」
「それは……本当に、僕が悪いとは思っているよ。へティも僕に不信感を持っていただろう?」
お兄様は苦笑しながら言う。
「それは否定しませんが……。それにしても、お兄様にだけ、随分厳しくしているように見えましたわ」
「そんなことはないよ。元々僕も後半年もしたら、卒業だろう? 後継者教育も本格化する頃ではあったんだよ。だからタイミングが重なっただけさ」
「本当に?」
「本当に。まあ、自分の不甲斐なさを感じたこともあって、かなり辛いことではあったことは否定しないけれど。へティも夏休みは終わったら、妃教育が始まるんだろう? お互い、忙しくなるね」
「正式には婚約が終わってからと言うことですわ。まだ猶予はあるとのことですが、確かになんだかんだ忙しくなりますね」
お互い、今みたいに時間を取ることは難しくなるのだろう。
当然のことではあるけれど、少し寂しい。
「それにそろそろ僕も婚約者を決めないとね」
「確かにそうですわね。と言うより、妹のわたくしが先に決まるのがなんだか不思議ですわ。もう決めた方はいらっしゃるのですか?」
「まあ……ね。向こう次第にはなるのだけれど。それに、僕たちは殿下が決めてから、自分達も決めるとい暗黙の了解があったから」
「まあ、そうなのですか?」
お兄様などはおそらく、フレディ様の件で集めれた令嬢と結婚するのだろう。
そのことを踏まえると、確かにフレディ様より先に決めることは難しいのかもしれない。
「暗黙の了解というか、遠慮というか。殿下は常々おっしゃっていたよ。“自分のことは気にせず、お互い気にいる相手ならば婚約していい“と。実際、本当にできるかは別として、そう言われるのは楽になるね」
「殿下は本当に配慮してくださいますね」
「ああ。……話は変わるけれど、まだ“殿下“呼びなのかい?」
「一応、まだ正式な婚約も結んでおりませんし。……安心してください、2人の時は名前で呼んでいますわ」
そんな不安そうな目で見ないで欲しい。
けれど、公私を使い分けていることを知ると、安心したように目元を緩めた。
「それなら良かった。年下の殿下や妹が頑張っているのだから、僕もアプローチしないとね」
「ちなみにどなたなのですか?」
「秘密。僕も自分の気持ちと向き合っている途中だから」
「ふふ、わかりましたわ。わたくしではあまり参考にならないかもしれませんが、何かあれば相談してくださいね」
「へティは自分が絡まなければ優秀だろう? だからその時は頼むよ」
「まあ、わかりましたわ」
もしかして、スタンホープ家は自分の気持ちに鈍いのかしら?
いいえ、お兄様は向き合っていると言ったから、鈍いわけではないですね。
「トミーはどうでしょう……。わたくしが気にしても、ということではありますが」
「年齢的にも、今すぐ決めることではまだないだろう。けれど、トミーは押しに弱いから、ぐいぐいこられたら受け入れそうな気もするな」
「確かに自分から新たな道を……は時間がかかるかもしれません。それならば、相手から来てくれるといいですね。それからわたくしはきっと相談に乗れないので、お兄様お願いしますね」
「任せといて。けれど、なんだかんだへティは放っておかないと思うけれど」
「……トミーが相談してくれたら、全力で応えます」
「うん、それでいいと思うよ。話してくれてありがとう。そろそろ行こうか」
「はい。お兄様、わたくしはお兄様が大好きですわ。今回のことは、露骨に秘密ごとをしたのに怒ったのです。できれば今回みたいな隠し事はしないでくださいね。するならきちんと隠し通してください」
「へティ……。ごめんね、もうしない。へティに隠しごとはバレるからね」
「まあ。ふふ」
「本当、問い詰めてくるへティは怖かったよ」
「ひどいですわ」
お互い笑いながら、言い合った。
ひとしきり笑った後、帰る準備もあるので、解散することになった。
お兄様と別れて部屋にもどると、エマが手紙を持ってきてくれた。
「まあ、お2人から同時に手紙が来たのね。それに早いわ」
「それだけ、お嬢様のことを心配していたのでしょう」
エマは手紙を渡すと、退室した。本当にわかっている。
手紙を早速開けて読む。
「パトリシア様は……“詳しいことはまた会って聞きますが、無事あるべき場所に着地して安心しました。“……本当、感謝しても仕切れない。メアリー様は……“良かったです。今度パトリシア様と一緒に色々聞かせてください“……メアリー様も男爵とはどうなったのか、気になるわ。一緒に聞けたらいいのだけれど」
2人とも本当に心配してくれていたのだろう。内容がほとんど同じなのが少し面白い。
「お話しするために、お茶会でも開いた方が良さそう。お母様に相談しましょう」
まずは帰る準備をしようと、エマを呼んだ。
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