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転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど!?  作者: 水月華
4章

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けじめをつけましょう


 話をした3人とも、その元カレもとい、クソ野郎にいい感情を抱いていないらしい。いや、わたくしももちろんそうなのだけれど。

 わたくしより気にしているというか。


「ヘンリエッタ嬢、君がそれほどまでに影響を受けたということは、よっぽど辛い目にあったんだと想像できるんだよ。僕たちだって君の性格は知っているつもりだ。だからこそ、はらわたが煮えくり変えるような思いなんだ」

「殿下……」

「それがなければ、もっと早くヘンリエッタ嬢を落とせていたかもしれないのに」

「台無しですわ」


 それを本人に言います? 感動を返していただきたい。


「どちらにしても、初めは同じように逃げたかもしれませんわよ?」


 意地悪をしたくなり、そんな風に言う。


「僕、結構優良物件だと思うのだけれど。王族で、顔も割と整っていると思うし」

「どうしました? キャラが変わっていますわ。本当に殿下ですの?」

「いや、客観的事実だね。最初は社交辞令だと思っていたんだけれど、あまりにも令嬢から熱い視線を受けることが多くて」

「ああ、なるほど。流石にそう言ったことが多いと事実として受け止めますわね。わたくしも自分のこと、割と綺麗だと思っていますし」

「そうだろう?」

「ですが正直、周りの顔面偏差値が高すぎるとは思いますの。家族全員とも見惚れることもありますし、パトリシア様もメアリー様も系統の違う美少女ですもの」

「それは確かに。これも君たちの言う“乙女ゲーム“が関係しているのだろうか?」

「そうですね。やはり物語の登場人物は、それなりに顔が整っていた方がいいですもの。観劇も、顔が整っておられる方が多いですし」

「そう思うと少し複雑だな」

「しかし先ほども言ったように、世界観が似ているだけですわ。それに、わたくしなんて侍女たちのおかげでさらに自分を磨けていますし」

「それを言うなら僕も体型は気を遣っているね。うん。努力の結果というものか」

「そういうことです。なんだか結構脱線しましたわね」


 この会話だけ切り取れば、ナルシスト同士の会話にしか聞こえない。


「まあ、過去の話はこれくらいにしておいて」


 殿下が再びわたくしの手を握る。


「改めて、僕の伴侶になってくれないだろうか?」

「はい。至らないところも多いですが、殿下の支えとなれたら望外の幸せですわ。よろしくお願いします」


 今度はお互いに、声は震えていなかった。

 思わず笑い合う。


「ハハッここまでとても長かったな」

「そうでしょうね。わたくしは自覚してから期間が短いので、濃密だった、という感想ですわ」


 本当にここ数ヶ月、色々あった。けれど、ここで喜びに浸るわけにはいかない。


「殿下、わたくし、けじめをつけとう思います」

「ああ。僕も1発殴られに行こうかな」

「まあ。王族に危害を加えれば、即処罰されてしまいますのに」

「僕が言わなければ、何も問題ではないだろう。相手の出方次第だけれど」


 わたくしにも止める権利はないかな。もし本当に処罰されることになったら、わたくしも一緒に受けよう。


「では行こうか」

「はい」


 頷いて立ち上がる。

 2人とも思いは同じようで、エスコートなどなしに歩き出した。

 向かう先はトミーの部屋だ。


◇◇◇


「どうぞ、お入りください」


 トミーの部屋の扉をノックすると、誰と問うこともなく入室を許可される。

 位置的にわたくしたちのことが見えていただろうし、わかっているのだろう。


「失礼しますわ。トミー」

「失礼」


 2人で入室する。

 トミーは窓から外を見ていた。けれどゆっくりとこちらに向き直る。


「……その様子だと、ちゃんと話せたようですね」

「ええ。トミーのおかげですわ」


 少し言葉に迷いながら言う。

 トミーの瞳は髪に隠れて見えない。


「じゃあ僕も区切りをつける時ですね」


 そういうと、トミーはわたくしの前まで近づいてくる。隣にいた殿下は数歩後ろに下がった。


「姉上……いえ、ヘンリエッタ嬢。僕は貴女を愛しています。家族としてではなく、一人の男として」


 今までこんなに真剣な眼をしたトミーを見たことがあっただろうか。

 前で組んだ両手に力を入れて、声を震えさせないように意識する。


「ごめんなさい、トミー。わたくしにとって貴方は家族以上の感情はないわ」

 

 せめてと、バッサリ、ハッキリ答える。トミーの眼を見つめて。

 トミーも眼を逸らすことなく、苦笑した。


「知っていましたよ。全く、僕は完全な当て馬ですか」

「何を言うんだ。僕にとって、トミーは最大のライバルだ」

「勝者のセリフですか」

「僕があのままだったら、勝者は君になっていただろう?」


 殿下、トミーにも素を見せているんだな。と場違いなことを考えていた。

 なんだろう、この公私で一人称を使い分けるの、いいよね。

 あまりにも2人の会話が小気味よく続いているので、わたくしはおいてけぼりだ。


「本当に、あの頃の殿下は情けなかったですね。外堀を埋めるのは大切でしょうが、肝心の姉上に逃げられそうになってしまうなんて」

「わかるだろう? ヘンリエッタ嬢は逃げるのが上手いから、外堀埋めて逃げられないようにしようとしたんだ。あれは予想外だったんだ」

「そもそも行動が軽率でしたよね。婚約者筆頭候補と、2人きりになるところを見られるなんて」

「あれはパトリシア嬢の真意を確かめたくてだな」

「それのせいで姉上の勘違いが決定的になったのではないですか? 殿下といえど、やはり間違えることもあるのですね」


 あれ、いつの間にかトミーがネチネチ口撃している。トミーにはわたくしの悩んでいる姿も見せてしまったし……口を出せないな。


「姉上がどれだけ悩んでいたと思うのです? 泣き腫らした目で朝食に現れたかと思えば、触れてくるなオーラ全開にしていますし」

「え」

「嘘⁉︎ 目の腫れは引いてから、家族に会ったはず」


 そこから筒抜けなのは予想していたけれど、泣いていたのもバレていた⁉︎

 殿下はひどく驚いた表情をして、トミーはさらに追い打ちをかける。


「確かにある程度引いていましたけれど、それでもわかりますよ」

「そ、そんな……。本当に筒抜け……」

「そういうことですね」


 崩れ落ちそうになるけれど、殿下の様子に我に帰った。


「で、殿下? 大丈夫ですか?」

「ヘンリエッタ嬢、すまない。僕の軽率な行動で」

「い、いえ。わたくしも、確認しなかったのがいけないのです」

「ヘンリエッタ嬢を泣かせてしまうなんて……」


 わたくしの言葉が届いていない。後悔の念に包まれている。

 どうしよう。

 オロオロしていると、トミーが殿下の前に移動する。

 止める間も無く、それは綺麗な手刀を殿下の脳天に叩き込んだ。


「ぐっ!」

「ト、トミー⁉︎ 何を⁉︎」


 殴られるなんて言った殿下だけれど、本当に殴られた! この場合は手刀だけれど、大差ない。


「その程度で我を忘れるなら、姉上を任せられませんね」

「トミー……もう少し手加減をだな……」

「8割は私怨が入ったのでつい」

「まあ、ある意味これも目的だったから……。しかし、そこは拳じゃないのか?」

「やられた側が何言ってるんですか……。というか被虐趣味でもお持ちなんですか?」

「そんなことはない。トミーに迷惑をかけたからそのケジメというか」

「殴ったらその分僕も痛いじゃないですか。それに、僕は殿下を認めているんです。でなければ、今も愛している人を渡そうなんて思いません」

「……ああ。トミーに幻滅されないようにしなくてはな」

「厳しい目で見ますからね」

「頼むよ」


 そんな会話をした後、トミーは再びわたくしに向き直った。


「姉上。絶対に幸せになってくださいね。姉上の幸せが僕の幸せです」

「ありがとう、トミー」

「殿下の気に入らないところがあれば、僕が矯正しますので、遠慮なく言ってください」

「頼もしいわね」


 本当に年下に見えない。

 3人で声を出して笑った。

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