告白です
殿下の言葉に答えたいのに、言葉が出てこない。
何を言えばいいか、と言うことではなく嗚咽が込み上げてきて喋ることができないのだ。
そんなわたくしを、殿下は急かすこともなく待っている。
もう自分でも、どのような感情で泣いてるのかすらわからない。
「いいよ。ゆっくりで」
「も、もうしっわけ」
「謝る必要はないよ。ヘンリエッタ嬢だっていつも待っているだろう。それと同じだ。気にしなくていい。……すまない。ルール違反だとは知っているが、このまま放っておけない。いやなら突き飛ばしてくれて構わない」
そういうと殿下は、わたくしを抱きしめた。暖かくて力強いその腕を、拒否するなんて思考になんてならなかった。
ただ、その感触に安心して涙を流した。
◇◇◇
どのくらい経ったのか不鮮明だが、涙はようやく止まった。
そして段々と冷静になってきて、今度は羞恥心が込み上げてくる。
とにかく離れなければと、そっと殿下の胸を押した。
殿下もわたくしの動きを察して離れてくれる。
「申し訳ありません」
「落ち着いたようでよかったよ」
「はい……」
しかし殿下はわたくしのそばからは離れない。近い距離にドギマギしてしまう。
そんなわたくしを見て、殿下はクスリと笑った。
「何か?」
「いいや。いつぞやと立場が逆転していると思ってね」
「ああ……。確かにそうですわね」
魔物襲撃事件の時、泣いた殿下のそばにいたっけ。
「あの頃も、ヘンリエッタ嬢を守りたいと考えていた。僕にとって、大切な、何よりも変え難い存在になっていたから。なのに君ときたら、あっさり臣下の務めだと飛び出すものだからこの世の終わりかと思ったよ」
「恥ずかしいですわ。あの時はあれが最良だと思っておりました。自分のことも、周りのことも何一つ考えないまま、衝動的に動いたのです」
ずっとわたくしを見ていたのなら、あの時の殿下の絶望は計り知れない。
今更ながら、最悪の選択をしたものだ。生きていたから、よかったものの。
「それで、ヘンリエッタ嬢の気持ちを聞かせてくれるかい?」
「はい。何から話せば良いか。……そうですね。わたくしも結論から言いますわ。わたくしは、殿下をお慕いしております」
「……ありがとう」
わたくしの声は震えることなく、最後まで言うことができた。
しかし、その後の殿下の声の方が震えていたのには、驚いた。
「で、殿下?」
「ああ、いや、すまない。僕も感極まってしまった」
殿下は隠すように、手のひらで顔を覆った。表情はわからない。
「感極まっている場合ではないな。僕たちは会話が圧倒的に足りないから」
「そうですね。ええ。それはもう周りの方々に、何度も言われましたから。殿下と言うより、わたくしに問題があるかと」
「ハハッ。まあ否定しない。ヘンリエッタ嬢があまりにも逃げるものだから、逃げる隙を与えないようにと躍起になっていたら、拗れてしまったね」
「では今度はわたくしがお話しします」
「ああ」
先に1番勇気のいる告白をしたからか、その後は普段どおりに話すことができた。
あまり恋愛に興味がなかったこと、自分の思い込みから恋愛感情を持っていたことを否定していたこと。
それから、明確に気がついた時期など。
もちろん、前世のことはこれ以上誰かに話すものでもないので、そこは伏せながら話す。
「なるほど……。だから夏休み前、僕が忙しいことを差し引いても捕まらなかったわけだ。うん。幼少期のことも予想はしていたけれど、納得したよ」
「はい。パトリシア様を利用していたのですわ。その被害者とも言えるお方が、全く気にしていないどころかわたくしを応援するなんて言った時には驚きましたけれど」
「君たちを見ていれば、ある意味納得だけれどね?」
「そうでしょうか?」
「もちろん。だってどちらかの性別が違えば、絶対結ばれていたと思うくらいにお互いを想っているからね」
「ええっ」
それは考えたことはない。もちろん、あり得ないと否定ではなく、お互いの立場を考えたら無理だと言う意味で。
「あれ、知らなかったんだ。特に僕の周りーーダニエルも納得していたけれど」
「ダニエル様まで⁉︎ 偏見ですが、1番そう言ったことに反対しそうですのに」
「まあ、性別が違えばの話だからね。それに2人ともお互いを親友としてしか見ていないのもわかっていたし」
「そ、そうですか……」
パトリシア様は知っていたのだろうか。いや、まずメアリー様に確認とろう。なんとなく。
「そういえば、恋愛に興味がなかったと言うことだけれど」
「はい?」
「僕と初めて会ったのは12歳だろう? ある意味、1番恋愛に興味が出る年頃だと思っていたのだけれど。何か理由があるのかい?」
ここはどうしようか。ありのまま話したところで、信じて……もらえる気がしてきた。うん。だって魔物襲撃事件の時だって信じてくれたもの。
あれだって予知夢のようなものと言っても信じてくれたし。
でもこれって色々な人に言うべきことでもないと思う。無理して言う必要はないというか。
「理由……そこまで大したものでもありませんわ。ただ、結婚とかに明確なイメージがなくて。それに家族と離れることになると言うのも、その時嫌だったんですの」
とりあえず、本当のことだけれど全て話すことはしないことを選んだ。
しかし、殿下にはお見通しだったようだ。
「その表情はまだ何か隠しているね? せっかく腹を割って話そうという機会なのに、隠すのかい?」
「い、いえ。申し訳ありません。あまり多人数に話すことでもないことかと思いまして」
「他に誰が知っているんだい?」
「パトリシア様とメアリー様ですわ」
「なるほど。ダニエルとトミーは知らないと」
「そうですね……」
そこ、必要あります? と思ったけれど、殿下には大事なことだったらしい。
「じゃあ全く話せないわけでもないのなら、教えて欲しい。何より、“特別“になりたいからね」
そんな風に言われては、拒否するなんてできるわけがない。
前世の話をすることに決めた。聞き終えた殿下が、思案するように顎に手を当てる。
「興味深い話だ。確かにメアリー嬢も不思議な感覚を持っていたけれど、まさか前世の記憶というものがあるなんて。それに、メアリー嬢の知っている通りのことが起きている。ここは作り物の世界なのか?」
「わたくしとメアリー様は、ここは似た世界観で全く別物だと認識しております。パラレルワールド……つまり、同じような世界が複数存在する並行世界といえば、わかりやすいでしょうか」
「なんとなくわかるよ。1番気になるのは、前世の“元カレ“とやらだけれど。こちらでいう婚約者なのかい?」
「いいえ。そこまで1つの恋愛や結婚に重みがないというか。気軽に関係を持てて、関係を切れるというものなので」
この世界では結婚したら、特別な事情がない限り離婚はない。まあ、昔は絶対に離婚できない、という感じだったらしいので、これでも優しくなっているのだけれど。
ところで、元カレの話になった途端、殿下から黒いオーラが出ているのだけれど、大丈夫でしょうか。
「殿下、怒っています?」
「怒っている……のもそうだけれど。嫉妬かな」
「へ?」
「僕以外に君に触れたものがいると思うと度し難いものがあるね」
「ええ……。トミーとか、お兄様にも触れていましたけれど」
「アルフィーは兄だからね。トミーもヘンリエッタ嬢が知らないところで、結構やり合っていたんだよ。きっとトミーもきけば、同じようになるんじゃないかな」
「そもそも、前世の話で今は全く、これっぽちも関係ないのですが」
「それでもヘンリエッタ嬢が心奪われて、なおかつ今に影響あるのが許せないんだよ」
そういう殿下の表情は、パトリシア様やメアリー様と同じように顰められていた。
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