ディグビー公爵令嬢との出会い
振り向くと、プラチナブロンドの髪に琥珀色の瞳を持った少女が立っていた。
確かこの子は――
「はい、そうです。貴方はディグビー公爵家のご令嬢ですね?」
わたくしが答えに辿り着く前にお兄様が正解を言う。少女は少し険のある声で答える。
「ええ、わたくしがディグビー公爵家の長女、パトリシアですわ。貴方はアルフィー・スタンホープ侯爵子息ですね?」
「はい。そしてこちらが、妹のヘンリエッタと弟のトミーです」
お兄様に紹介され、立ち上がり、カーテシーをする。
「お会いできて光栄ですわ。ご紹介に預かりました、ヘンリエッタ・スタンホープです」
「トミー・スタンホープです。どうぞお見知り置きください」
「せっかく挨拶していただきましたし、この機にパトリシア様とお呼びしても?」
「構いませんわ。わたくしもヘンリエッタ様、トミー様と呼ばせていただきます」
名前呼びを許可してくれたのだから、好意的ではあるのだろうけれど言葉の端々に険を感じる。今日が初対面だし、今ので嫌悪感があったのなら名前を呼びを許可しないと思うしなぜ?
内心首を傾げていると、少し吊り目がちな目がさらにキツくなる。
「ヘンリエッタ様は、随分感情を表に出すのですね。侯爵家の令嬢としてふさわしくありませんわ」
どうやらわたくしの振る舞いの問題のようだ。
「先ほども聞こえてきましたが、こんな誰の目があるかもわからないところで自分の弱みを言うなんて。もしそれを他の者に聞かれたらどうするのです」
……初対面の人にお説教されている。今までこんなこと言われたことがないので驚いてしまった。
ぽかんと口が空いてしまう。それを見てさらにパトリシア様の目が吊り上がった。
「なんです、そのお顔は。貴族令嬢としての自覚がないのですか」
言われている内容はわかる。ただ、何故初対面の人に言われなければならないのだろう。
人間とは面倒なものだ。それが例え正論だとしても、対して親しくもない人に言われれば反発心が先立ってしまう。
それに、パトリシア様も気がついていないのだろうが、隠せていない。
ここであえて下手に出るのは簡単だが、舐められてしまっては元も子もない。
売られた喧嘩は買って差し上げましょう。
「まあ、申し訳ありません」
パトリシア様が眉をあげた。何故なら言葉と裏腹にわたくしは笑っているから。顎をツンと上に向け、見下すように言う。
「ふふ、でもパトリシア様も人のことを言えませんことよ? ‘’人のふり見て我がふり直せ‘’と言う言葉をご存知ないのでしょうか?」
「なんですって?」
サッとパトリシア様の頬に朱がさす。いい感じに煽れたようだ。
このままでも良いが、流石に注目を集めつつあるのでやめておこう。
ススっとパトリシア様に近づき、耳打ちする。
「表情を取り繕うことはできていても、手を握ったり開いたりしてますわね。緊張、不安、焦り……。挨拶した時からそうですわね」
パトリシア様は微かに息を呑み、拳を握りしめる。
そう、顔には全く出ていないのにずっと手を動かしていた。こちらに話しかけることというよりも、この場にいることでそうなってしまっているようだ。
「それでも、ご忠告は感謝いたしますわ」
周りに聞こえるように言うと、パトリシア様は目を少し見開いていた。
「ご自身も緊張していらっしゃるのに、こちらを気遣ってくださるなんて……。ふふ、これで貴女さまが隠し通せていればよかったのですが」
再び声を顰め、感謝しつつ嫌味はしっかり伝える。
パトリシア様は更に顔を赤くした。それは怒りか、もしくは照れか。前者の方が高そう。
とは言え、側から見たらこちらが感謝して終わっているはずだ。パトリシア様も理解しているのか、先ほどのわたくしと同じように顎を上げる。
「ふ、ふん! わかればよろしいのです。とにかく今日、ここに集められているのですから、もっと貴族令嬢としての立ち振る舞いを意識するべきですわ」
ん? 今日集められたメンバーって何か意味があるの?
と、その時。周りが騒がしくなった。




