始まりました
あと少しでお茶会会場(王城)に着くところでトミーは目を覚ました。意外と落ち着いていたが、恨みがましい表情でこちらを見ている。
流石にやりすぎてしまったらしい。
「トミー、ごめんなさいね。つい我を忘れちゃって」
「……怒ってはいないです」
「表情が怒っているのだけど……」
こちらを気遣っているのだろうけれど、表情が全く合っていない。そんなところも可愛いのだけれど。
お兄様がトミーをヨシヨシしている。それを拒否せず受けているトミー。
お兄様は呆れたような眼差しをこちらに向けている。味方がいない。確かに暴走したわたくしが悪いのだけれど。
と、王城に着いてしまったようだ。御者がノックする。お兄様が応えて、馬車から降りた。
お兄様が手を差し伸べてくれる。その手に自身の手を重ねて微笑むと。
反対の手が引かれた。トミーが不貞腐れた顔をしている。お兄様は笑いを堪えているのか震えている。しかし、反対はないまま、2人にエスコートされた。
うん、トミーの機嫌を直すためにも会場まではこのままにしよう。これが両手に花か。なんと言う贅沢。
笑みを溢すと、ようやくトミーの顔も和らいだ。
会場に入る前に2人と離れる。会場はガーデンパーティ形式のようだ。侯爵家より広い庭にスイーツが乗ったテーブルがあり、花壇に通じるアーチがあるのも見てとれる。既に10人以上が所々に固まって談笑している。わたくしたちは侯爵家なので割と登場が遅いそうだ。
なので、あと少しでパーティも始まるだろう。今日の目標はとにかくフレディ殿下とは当たり障りない関係にすること。それから他にもいるかもしれない攻略対象の確認だ。高貴な身分だったり、キャラが立っていたり、顔面偏差値が高かったり。その辺りの子たちは要注意だ。
それから女の子も注意する必要があるだろう。いわゆる取り巻きだ。取り巻きになるであろう子たちが悪い方向に連れて行こうとしないか見極める必要がある、そうなるなら距離を取るまでだけど。
一応、お母様に見極め方を教えていただいた。うまくいくかはわからないけれど、頑張ってみよう。
いつの間にか参加者が揃っていたらしく、皆が集まり出していた。わたくしたちも続く。
挨拶のためか王妃様と、本日の主役、フレディ殿下が姿を現した。王妃様はダークブロンドの髪をどうすればそうなるのかわからないくらい、複雑に結い上げている。カーマインの瞳がとてもよく映えている。
「皆、今日はよく集まってくれました。これから我が息子、フレディと仲良くして貰えたらと思っています」
そのアルトの声は染み渡るように会場に響く。否応なく人を惹きつけるその声に魅入られてしまう。多忙な国王を支える、また国民に寄り添うよき国母としての姿がそこにあった。
挨拶が済み、皆バラバラになる。ここから殿下が気になったグループに声をかけていくのだろう。周りがソワソワしているのがわかる。
わたくしたちはお兄様が空いてるテーブルを見つけてくれたのでそちらに移動する。席に着くと、給仕の人が紅茶を淹れてくれる。
紅茶を飲みながら、お兄様たちと周りを見渡した。
「やはり、デビュタント前といえど、皆様作法がしっかりしてらっしゃいますわね。わたくしも頑張らないと」
「へティはよく頑張っているよ。でも確かにもう少し筋力があればカーテシーも安定するんじゃないかな」
「筋力……あっ」
お兄様の言葉で急に思い出す。前世ではボディメイクに目覚めていた。ジムに通って日々筋トレに勤しんでいたのだ。
「そうですね。これから鍛錬してみようかしら」
「無理しないでくださいね、姉上」
その時だ。後ろから声をかけられたのは。
「あなた方がスタンホープ侯爵家ですわね?」




