会場に向かいます
ホールへ行くと既に、お兄様とトミーが待っていた。
「お待たせして、申し訳ありません」
と、復習の意味も兼ねてカーテシーをする。うん、問題はなさそう。まだ軸がブレてしまうけれど許容範囲のはず。
お兄様がやってきて、恭しくわたくしの手を取った。
「とても似合っているよ。既製品ですらこんなに可愛いのだから、オーダーメイドのドレスを着た日には令息たちが列を成しそうだね」
「お上手ですこと。お兄様もとても素敵ですわ。お兄様こそご令嬢方の注目の的になりますわ」
お兄様は全体的に紺色で纏めている。少し長めのアリスブルーの髪は後ろに撫で付け、大人っぽい。色気も出ていて、お兄様も成長してるんだなあと実感した。うん、結婚適齢期になったらすごいことになりそうだ。
「トミーもよく似合っているわね……トミー?」
トミーは白色で纏めているように見えたがよく見るとベージュだ。お兄様と違い、ふわふわの髪はそのままにしている。
話しかけるが、トミーは無言だ。石になったように動かない。目の前で手を振ると、ようやく動いた。かと思いきや体ごと後ろを向いてしまった。プルプル震えている。
「トミー、紳士たるもの褒め言葉の一つも言えないと困るぞ? 見ろ、へティが困っているではないか」
お兄様がニヤニヤしながら言う。
「お兄様、無理強いは良くありませんわ。トミーの好みではないかもしれないではないですか」
そう言った瞬間、グリンとこっちを向くトミー。いや、勢い凄すぎてホラー映画か。
「姉上は綺麗です‼︎ 好みじゃないなんてそんなことあるわけがありません!」
……顔を真っ赤にしながら言うトミー。なんなら目も潤んでいて、身長差で上目遣いだ。
気がついたら思い切り抱きしめていた。
「なななななっ‼︎ あ、姉上っ、ちょ!」
「可愛いわあ‼︎ なんて可愛いのトミー‼︎ 貴方は天使の生まれ変わりに違いないわ! 貴方がわたくしの弟なんて、本当神様に感謝してもし足りないわ!」
そう言いながらぎゅうぎゅう抱きしめる。ちょうど胸の辺りにトミーの顔があるが、まだ第2次成長期は迎えてないので問題なしだ。
「へティ、落ち着け。とりあえずトミーが窒息するぞ」
「はっわたくしとしたことが、あまりのトミーの愛らしさに我を忘れるなんて。トミー、ごめんなさいね」
「…………」
慌てて離れると、トミーは魂が口から出ていた。いや、実際には出ていないはずだが見えてしまった。
「きゃあっトミー! しっかりして!」
「……これは前途多難だなあ」
苦笑するお兄様だが、トミーを抱えた。そのまま馬車に向かう。え、休ませなくていいの?
「お兄様! トミーは休ませた方がいいのでは⁉︎」
「大丈夫だよ。それに連れて行かなかった時の方が多分面倒臭いことになるし、着くまでには起きるよ」
流石に馬車に乗る時は御者に任せて、乗り込む。お兄様の隣にトミーを乗せてそのまま膝枕をしてあげていた。
(ま、眩しい……! 兄弟愛がひしひしと感じるわ! ああ、このまま鑑賞してもいいけれど、わたくしもトミーを膝枕したい!)
2人を見つめていると、お兄様は咳払いをして言った。
「へティ、そんな目で見ても膝枕は代われないからな」
「う……おほほ。大丈夫ですわ。お兄様の美味しいところをいただくわけにはいきませんもの」
「そう言う意味ではないんだが……まあ、いいか」
お兄様は揶揄うような表情だ。その視線はトミーに向いている。
(ああ……お兄様のトミーを見る眼差しが素敵……)
「へティ、その顔をやめなさい。外で見られたら大変なことになるから」
「わたくしそんな変態な目で見ておりませんわ!」
「違う! そうじゃない!」




