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新生ヘンリエッタ誕生


 前世の記憶を思い出してから3日が過ぎた。心配が過ぎる家族(主にお父様)に軟禁状態にされそうになったが、元気であることを念押しして庭にも出られるようになった。

 お兄様と一緒に庭でお茶を楽しむ。


「うーん、気持ちいいー」

「ああ、そうだね。それにしても体調が良くなって安心したよ」

「ふふ、お兄様ったらそればっかり。もう大丈夫ですよ?」


 心配される分だけ愛されていることを感じて顔がほころぶ。バターの風味がしっかりしてるクッキーを口に運んで、その味に舌鼓を打つ。

 紅茶が無くなると、侍女がサッとおかわりを入れてくれる。


「まあ、ありがとう。皆が紅茶を淹れるのが上手でとっても美味しいわ」


 にっこり笑って、侍女にお礼を言う。するとびっくりしたような表情をされた。


「えっ……いえ! 光栄でございます!」

「…………?」


 そんなに変なことを言っただろうかと首を傾げる。お兄様を見るが優雅に紅茶を飲んでいるだけで何も言われなかった。


(というかお兄様まだ10歳のはずなのになんでこんなに気品に溢れているの?幼さと優雅さのアンバランスささえも魅力的だわ)


 思わずうっとりと見つめてしまった。すると少し顔を赤らめて、フイと視線をずらされた。


「へティ……その表情で見られると恥ずかしいんだけど」

「あら、失礼しました。お兄様があまりにも優雅だったので見惚れてしまいた」


 そう言うとさらに顔が赤くなる。耳まで真っ赤だ。ごまかすように咳払いをする。


「全く……あれ以来人が変わったように……。これは将来が恐ろしいな」


 よく聞こえなかったが、あまり弄るのも良くないだろうと話題を変えてお茶の時間は過ぎていった。



◇◇◇



 夕食の時間。家族で食事をしながら、お父様が話しかけてきた。


「そろそろ家庭教師を再開したいのだがいいかな?」


 食事の手を止めてお父様を見る。

 そういえば前世の記憶が戻る少し前から家庭教師が来るようになったのだ。この世界では15歳になったら学園に入学するのが一般的だ。それまでにマナーやある程度の教養は家庭教師によって学ぶ。


「もちろん構いません。よろしくお願いします」

「あ、ああ。わかった。では手配しておこう」


 自分から言っておきながら、お父様はなぜか驚いていた。と言うより、周りの人たちも驚いている。なぜだ。


「…………わたくし、そんなに変なことを言いましたか?」

「あー、いや、その……」


 口籠ったお父様の代わりにお母様が尋ねてきた。


「へティ、あなた勉強そんなに好きじゃないでしょう? 時々逃げ出していたくらいだし」


 確かに記憶が戻る前は嫌だったような……。しかしむしろ今は学びたい。

 記憶が戻ってからほぼほぼ前世に引っ張られていると思う。性格というか精神面がそっちに引っ張られている。

とはいえ、ここでの記憶が失われた訳ではない。家族での楽しい思い出も覚えている。物心ついた時からヘンリエッタの記憶は失われずにあるのだ。

 反対に前世の記憶は穴が多い。まず名前。前世の名前は覚えていない。同様に家族、友達の顔に名前も思い出せない。しかし幸せだった記憶はある。ごくごく普通の女性だったと思う。年齢は確か、27歳。恋人は過去にいた事があるが、最後はいなかった。というより若干ストーカー気質の元彼に粘着されて、恋愛への興味が無くなっていた。  

 人に関することは鮮明ではないが、その他は割と覚えている様に思う。すなわち、自分に関する記憶が曖昧ということだろう。

 前世では科学の力によって発展してきた。車や、飛行機、スマートフォンといった、こちらからすればあり得ないほど高度な文明。

 しかし、この世界では科学の代わりに魔術で発展している。特にわたくしのいるナトゥーラ王国は魔術の発展が凄まじい。貴族に生まれたものは全員魔術が使える。人によって使える属性が異なるのも特徴だ。学園は魔術を重点に学ぶ場といえる。


閑話休題。


 とにかく、今のヘンリエッタは厳密にいえば今までのヘンリエッタではない。前世の人間そのものでもない。うまく融合した結果が今のヘンリエッタだ。

 というわけで、前のように勉強を嫌がる理由もない。それどころか前世とは全く違う世界を知りたいという気持ちが強い。

 

「そうでしたね。しかしあの件があって、考え方が変わったのです。それに――」


 そこまで言って真剣な表情で家族を見つめる。


「今日、お兄様とお茶をして、その優雅さに見惚れてしまいました。それから、お父様とお母様の食事をする姿にも。対してわたくしはまだまだです。スタンホープ侯爵家の長女として、頑張りたいのです」

「…………まあ、へティがそこまで言うなんて……!」


 お母様は目を潤ませている。お父様もこちらを見つめている。


「嬉しいよ。侯爵家のために考えてくれるなんて。それなら頑張ってほしい」

「はい。お父様」

「僕もまだ勉強中だけど、へティに憧れられるのは嬉しいね。期待に応えられるよう僕も頑張ろう」

「お兄様、一緒に頑張りましょうね!」


 そうして、新生ヘンリエッタとして頑張ることを誓うのだった。

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