手紙を書きます
邸に帰ってきた。
とりあえず、一旦お互いの部屋に戻って着替えることにする。
「姉上、姉上の希望でいいのですが、僕は手紙を書くとき、一緒にいた方がいいですか?」
「……いいえ。1人で書きます」
「分かりました。煮詰まったりしたら言ってください。手伝えることがあったら手伝います」
「ありがとう、トミー」
どこまで、この子は優しいのだろう。
ここで頼りたくなったのは嘘ではないけれど、これ以上甘えたくないと言う気持ちもあったので、1人で書くことを選択した。
部屋に戻り、服を着替える。早速便箋を用意して、手紙を書く体勢に入った。
元々、書くことは決まっている。ここに着いたこと、それから初めての領地に訪れたことに対する感想。
そこまで澱みなく、スラスラ書けたけれどその後が進まない。
なんと書けば良いのだろう。向こうから書かれるのを待つか。けれど、そんなことをしてはトミーを待たせてしまう。
できれば、トミーが話したくなったタイミングで話し合いたい。
ならば、この話題を出さないわけにはいかない。
けれど、全く何を書けば良いか出てこない。
素直にトミーに、助言を求める? いいえ。そんな早すぎる。もう少し粘らないと。
うんうん唸る。結局、書こうとしては止まってしまうを繰り返し、便箋を何枚かダメにしてしまう。
「はあ……」
なんだか、いや、わかっていたことだけれど。本当に最近のわたくしはダメだ。
以前ならあの手この手で、聞き方を変えるなり別の方向から攻めてみたりと出来たのに。
どこからおかしくなったのか、と思えばそれこそ魔物襲撃事件の前後からだ。
ああ、そう考えるとしっくりくる。
パトリシア様も、メアリー様も、トミーも。わたくしの様子が変わっていることに気がつかれた頃と同時期だ。
わたくしは調子が悪いのかと思っていたけれど。そうではなく、気持ちの変化を無意識に押し込めた結果、こうなっているのだろう。
なんというか、ここまでわたくしはヘタレ。そう、ヘタレだったらしい。
そして周りに筒抜けだったのが、なお恐ろしい。これ、嫌な予感がしてきた。
殿下だって、気がつかないわけがなくない? パトリシア様たちが、わたくしと殿下を近づけようと計画したことで何度も接触する機会はあった。
それこそ、テストの結果発表の日まで。その後からは殿下は何かと忙しそうで、わたくしも自分から近づかなかった。
そういえば、何度か視線を感じて振り返ったら殿下がいたような。視線は合わなかったけれど。
気のせいだと思っていたけれど、殿下が本当にわたくしを見ていたとしたら?
けれどそれならば、結果発表の日に殿下はパトリシア様と2人きりで話し合ったのだろう。
わからない。
あと完全な自業自得なのだけれど、パトリシア様に聞くのが気まずい。
あんなこと言っておいて、今更、結果発表の日はどんな話をしたのですか? なんて聞けない。
なんというか、プライドという問題ではなく道徳心という話で。パトリシア様の立場からしたら、わたくし最低じゃない?
どれだけ振り回すんだって、文句を言われてもなんら不思議ではない。
あ、詰んだわ。
その思考に至った途端、体から力が抜けて机に上半身を預けてしまう。
もしかしたら、パトリシア様と友人という枠にはいられないかもしれない。
絶交を突きつけられても、おかしくない状態なのではないだろうか?
それならば、この状況を利用して……。いえ、それでもわたくしだけが不利になるならまだしも、最悪全員が不幸になってしまう。
どうすれば、もっと良い道を探せるのだろう。
ああ、全て投げ出したい。
そんな風に、思考が負の感情で埋め尽くされた時。
「お嬢様、一旦休憩にしましょう。もう1時間も悩んでおられますよ」
「エマ……」
振り返ると、エマがワゴンを持って入ってきていた。
時間感覚も無かったので、そんなに経過していることに驚く。
エマはお茶やスイーツを準備している。どうやら強制的に休憩させられるらしい。
「ノックをしても気がつかないので、心配しました。顔色も悪くなっていますから、休憩です」
「はい」
お姉さんオーラを出していうエマに、反抗する気もなくテーブルについた。




