気付かれていた
トミーの表情と、発言内容に思考が停止する。
「え……トミー。待って、わたくしは」
「姉上は、ずっと自分の気持ちを誤魔化しているのは気がついていましたよ。だから、僕も諦められなかったのですが……。ようやく認められるようになったのですね」
「い、いつから、気がついていたのですか?」
違う、言いたいことはこれではない。けれども、言葉が出てこない。
「ずっと前から、なんとなく思っていました。決定的になったのは、魔物襲撃事件の前後からですね」
パトリシア様も言っていた。トミーも同じくらいに気がついていて、ずっとそばに居てくれたの?
「なんで……」
何に対して、聞いているのか自分でもわからない。
「なぜ、ですか。逆に僕は、なぜそんなに頑ななのかと不思議に思っていました。殿下は明らかに、姉上を特別扱いしている。聡い姉上がそれに気がつかないはずがない。自分の気持ちに気がついていたら、殿下を受け入れるはずです。けれど、姉上は何もしなかった。むしろ、自分を犠牲にしようとしましたしね。姉上自身の気持ちに気がついていないと考えるのが、普通だと思いますよ」
「…………」
周りはわたくしのことは筒抜けだったようだ。きっと、家族全員もわかっているはず。
こんなのは、妄想でしかないけれど。もしかして、わたくしも第三者視点で見ていたら自分の気持ちに気がついていたのだろうか。
そんなどうでもいい、考えても詮無いことが浮かぶ。
「それで、話は戻りますが。殿下が今更、姉上以外に目を向けるとは考えられないのですが。パトリシア嬢とはその内容について、詳しく話していないのですよね?」
「え、ええ」
思考が千々切れて、トミーに聞かれたことに答えるのが精一杯だ。
本当は、謝罪したいのに。けれど、トミーは思考の猶予を与えてくれない。
さらに話を続けた。
「パトリシア嬢と、手紙のやり取りもする約束をしていましたね。その手紙にちゃんと殿下との関係が明記してあれば、とても分かりやすいのですが。手紙が届くまではなんとも言えませんね」
「そうですが……」
「姉上もそろそろパトリシア嬢に手紙を書く予定でしょう? こちらに到着していることを知らせなければ、向こうも送るに送れないでしょうし」
「え、ええ」
「パトリシア嬢も誤解されていると考えているから、夏休み前に話したかったのでしょうし。このところ、パトリシア嬢とメアリー嬢の不思議な行動の理由もそこが関係していると考えれば、焦っているでしょうね」
「待って」
「ここではこれ以上、何もできないので邸に戻りましょうか。それから――」
「待って‼︎」
トミーの話を遮るように、大きな声で止める。
視線をずらしたくなるのを堪えて、その瞳を見つめる。
「なぜ……なぜ、わたくしのことを……っトミーには、わたくしを責める権利があります! なぜ、責めもせず……わたくしのことを、気遣っているのですかっ」
違う、言いたいことはこんなことじゃない。これでは八つ当たりだ。
「あ、違うのです……。ごめんなさい。わたくしは」
「姉上」
そっと人差し指を、唇に押し当てられる。
トミーの表情は、穏やかだった。
先ほど見せた、泣きそうな表情が嘘のよう。
「今は、まだ。その時にしないで下さい。このことが片付いたら……改めて伝えさせてください。僕の我儘です」
「……」
穏やかな表情とは裏腹に、その声音は切なさに満ちていた。
ああ。わたくしは、なんて子供なのだろう。
体はどんどん大人になっていくけれど、精神は未熟なまま。
情けない。
自己嫌悪に陥りそうになるのを振り払い、トミーの言葉に頷く。
「わかりました。トミーが我儘を言うことなんて、今までなかったのですからわたくしは大丈夫ですわ」
そして、わたくしたちは邸に戻ることにした。
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