予想外の方向に進んでいます
言ってしまえば、なんだかスッキリした気がする。
いや、現在進行形で胸は痛んでいるけれど。なんというか、誰にも言えなかったことを言えたスッキリ感ということかな。
「…………」
トミーが無言になってしまった。見れば、鳩が豆鉄砲を食ったような表情だ。
こんな表情見たことないわ。
ああ、そうよね。トミーと殿下はずっと争ってきたのだし、驚くのも無理はない。
……自分で言ってて、恥ずかしくなってきたわ。
「その……トミーが驚くのも、無理はないですわね。わたくしも口止めされていたから……」
「あ、ああ、その、そうですね……?」
挙動不審になっているトミー。目がすごい泳いでる。目が回らないか、心配になるくらいに。
「だ、大丈夫?」
「ちょっと待ってくださいね。今整理しますので」
「え、ええ。待ちますわ」
そんなに衝撃を受ける? 思った反応より大きいので、流石に予想外だ。
待つこと、数分。湖を眺めながら、トミーが落ち着くまで待つ。
陽の光に煌めく湖を眺めているのは、とても良い。なんだか、心が洗われている気分だ。
と、落ち着いたらしいトミーが、声をかけてきた。
「姉上……確認ですが、それは本当のことなのですか?」
「ええ。そのはずですわ。あの時、2人きりで令嬢と会わない殿下が、パトリシア様だけをお呼びしたんですもの。いつもついて行くダニエル様も、席を外していましたわ」
「つまり……話の内容は聞いていないと?」
「そうですが……。けれど、後日パトリシア様にお聞きしたら、認めるようなことを言ってましたわ」
「本当に? 確実に認めるようなことを言ったのですか? その時の言葉、一言一句、思い出してください」
トミーの妙な迫力に押され、記憶を引っ張り出す。
ええっと――
「最初は、確か……。顔を赤くするばかりでしたわ。話したそうにはするのですが、えっと、トミーもいたので話せなかったようで」
「……もしかして、3人で話したいと言っていたのは……」
「恐らく、その時の話だと思うのです」
「そうですか……。それ以外では、何かありましたか?」
「後は……。ああ、夏休み前の登校日ですわ。‘’わたくしと殿下はまだ決まったわけではない‘’と言っていたので、本人同士では決まっているけれど公にするのはもう少し先なのでしょう。調整とか、大変そうですもの」
「あの時か……様子がおかしいとは思いましたが……」
トミーは唸っている。
「姉上。僕が今話を聴いた限りでは、パトリシア嬢はそう言う意味で言ったのではないと思います」
「え?」
「姉上は殿下を甘く見過ぎです。あの殿下が、そう易々と姉上を諦めるはずがありません」
「でも……」
「今回の話も、それを込みで話そうとしたのに……。なんで拗れているんですか。いえ。姉上の言う通り、軽率に令嬢と2人きりになったのは不味かったですね。特にパトリシア嬢は」
トミーはイライラしてしまっている。どうしましょう。
「そ、それより、トミーのお話って?」
「……僕の話は後の方が良さそうです。じゃないと、変な期待もしてしまいそうですからね」
話題を変えようとしたけれど、厳しい表情で拒否されてしまった。
トミーの言い方から想像するに、トミーはまだわたくしに恋情があると言うことなのかしら?
わたくしが殿下の婚約者でないとなれば、トミーにとってはチャンスなのだろうし。
「姉上はずっと僕と殿下を躱していましたからね。殿下の本気をご存じないんです。それに今まで何年、殿下を躱していたんですか。それでも諦めなかった殿下ですよ? 今更心変わりする方があり得ません」
「きょ、許容量を超えたのかもしれませんわ?」
「そんなことしたら、僕が矯正しますけれど?」
「それは怖いわ」
いけない。ヤンデレ再び。いや、この場合、ヤンデレなの?
わたくしにと言うより、殿下に執着していない?
「はあ……これは領地に帰ってきたのは失敗ですね。……でも」
「?」
「最近の姉上の行動の意味が分かりましたよ。……殿下のこと、好きだと言うことにようやく気がついたのですね」
泣きそうな表情で、トミーが呟いた。




