お話ししましょう
トミーに手を引かれるまま、最初に目指していたレストランに着いた。
レストランというか、カフェに近いらしく軽食も提供されているらしい。
これなら、串焼きを食べたからといって食べきれないということはなさそうだ。
トミーは未だ無言のまま、店内に入り店員に席まで案内される。
その間も手は握られたまま。離して欲しいなんて言えるはずもなく、席に着くまでそのままだった。
無言でメニュー表を先に見せてくれるトミー。
こういうところで、対応を変えないのはトミーらしいというか。
「ありがとう」
ここは普通に、笑顔でお礼を言う。
トミーもそこで無反応でもいいのに、ちゃんと頷いて反応を返すあたり優等生だ。
メニューを眺める。先ほど塩っけのあるものを食べたからか、甘いものに目がいってしまう。
どうしましょう。フルーツサンドなんてとても美味しそうだわ。
ああ、見ていたら完全にフルーツサンドの気分になってしまったわ。
「わたくし、このフルーツサンドにしますわ」
店員に伝える。
トミーは魚のソテーを頼むらしい。やはり、串焼きだけでは足りないのね。
店員が去った後も、無言の時間が続いた。
流石になんとかしたいわ。
どうしましょう。話しかけようにも話題が出てこないし、トミーが俯いているわ。
とても話しかけづらい。
と、急にトミーが顔を上げた。
「姉上。食事が終わったら、ウィーミア湖に行ってみましょうか」
「え、ええ、そうね。邸にいた侍女たちも、ウィーミア湖が時間帯によっても表情が変わって綺麗だと言っていたし、気になるわ」
驚いたけれど、異論はないので頷く。
それよりも、トミーの雰囲気が変わったことが気になってしまう。
トミーを見つめていると、トミーもこちらを見つめ返していった。
「お話ししたいこともあるので」
その言葉に、頷く。どちらにせよ、今日、話をするつもりだったのだ。
時が来たのだ。逃げるなんてことはしない。
そのタイミングで、食事が運ばれてくる。店員が離れたところで、わたくしも口を開いた。
「わたくしも話したいと思っていたの」
「良かったです。とりあえず、今は食事を楽しみましょう」
「そうね。とても美味しそうだわ」
フルーツサンドはとても美味しかった。フルーツの酸味と、生クリームの甘さのバランスが丁度良い。
ポツリポツリと話をしながら、食べ終える。
店を出て、歩いてウィーミア湖に向かう。
馬車を使っても良いのだけれど、距離がそんなに離れていないので歩くことにした。
途中でエマから、日傘をもらう。日差しも強くなってきたけれど、日傘をさすと少し楽になった。
段々とお互いに緊張しているのか、口数が減っていく。
雰囲気も固くなってしまう。
けれど、湖に着いたらそんな空気も吹き飛んでしまった。
「わあ……とても綺麗ね」
邸から見るのとまた違う。より湖面がキラキラと輝いている。
水鳥が水浴びをしたり、魚が跳ねたりする水飛沫も煌めいてとても美しい。
「本当に綺麗ですね。王都では観光地なんて場所はあまりないですし、とても新鮮です」
「ええ。なんだかもったいなかったわね。こんなに綺麗なところを知らないで過ごしていたなんて」
「そうですね」
しばらく景色を楽しむ。
「姉上は」
「はい?」
「姉上が……殿下の婚約者になったら、ここに来るのも難しくなりますね。妃教育もハードなものだと聞いてますし」
「……そうね」
深呼吸する。
「けれど、わたくしが殿下の婚約者になることはないでしょう。この間、殿下は決断されたようですから」
「決断?」
「ええ。トミーが昨日言っていた、テストの結果発表の日のことなのですけれど。あの日、殿下はパトリシア様をお誘いしてましたの。きっと、パトリシア様を婚約者にすると決断されたのでしょう。正式な発表はこれからで、このことは他言無用にとパトリシア様に言われましたが」
「え、なっ。それ、本当ですか⁉︎」
「ええ。ですから、わたくしが殿下の婚約者に選ばれるという未来はありませんわ」
声を震わせることなく、言うことができた。




