注目されているのは?
後半分ほどの量になった。この辺りから結構食べづらくなってくるのよね。
トミーが串からお肉を外したときに、口の端にタレが付いていた。
いつもならトミーもナプキンで拭くところだけれど、片手が串焼きでハンカチを取り出せない。
諦めて口の端をペロリとなめ取った。
わたくしは、変な声が出そうになるのを必死で堪える。
(な、なんなの……⁉︎ 色気がすごいわ! あああ、顔面国宝……はっ! こんな姿を他の方が見たら、イケナイわっ。たちまち囲まれてしまうじゃない!)
「姉上っ。タレが手に零れてますよ!」
トミーの声に我に帰る。確かに串の部分から、タレが手に伝ってしまっている。
このままでは、服についてしまう。真っ白な服だから、汚れたらまずいわ!
「あっ、大変」
もうハンカチを出す余裕もない。
こぼれ落ちる直前に、舌で受け止めることに成功した。
ギリギリセーフだ。よかった。
「危なかったわ。教えてくれてありがとう、トミー。……トミー?」
「…………」
呼びかけても、反応がなかったけれど、数秒置いて我に帰った。
「大丈夫?」
「いいえ、これっぽっちも、大丈夫では、ないです」
なぜか一音一音区切って言われてしまった。
「早く食べましょう。虫が寄ってきても困りますからね」
「虫って……確かに今の時期、虫は多いけれど見当たらないわよ?」
「お嬢様、そんなボケはいいので食べましょう」
「え?」
ボケたわけではないのだけれど。
首を傾げていると、トミーは険しい顔をしながら辺りを見回している。
追うように視線を滑らせるけれど、そこには歩く人がいるだけでおかしなところはなかった。
なぜかエマも険しい顔をしている。
とりあえず急かされるまま、串焼きを頬張った。
食べ終えると、エマが串を回収してくれた。
捨てに行くと言うので、待とうとしたけれど。
「ここにいては面倒なことになるので、先に行ってください」
と言われてしまい、トミーに促されるまま最初の目的地に向かった。
いろいろ確認したいけれど、2人の勢いがすごくてそんな余裕はない。
諦めて、トミーについていく。
「……とりあえず、ここまで離れれば大丈夫でしょう」
ある程度進んだところで、トミーは息を吐いた。
そんなに緊張することだったのかしら? ゴロツキのような人相の悪い方はいなかったけれど。
「急にどうしたの? あの時は特に変わったことがないように思えたけれど、何かあったの?」
「それ、本気で言ってます? ああ、言ってますね。姉上ともあろう方が、逆にどうしたのですか」
どう言うこと?
普通のわたくしなら、理解できることだと?
直前のことを思い返す。あの時は――。
「ああ! トミーに寄って来そうな、女性が沢山いたのかしら?」
「…………はあああああ」
「ごめんなさい」
思いっきりため息を吐かれてしまったので、不正解どころか呆れられているわ。
「姉上、どうして、僕の、話になる前に、ご自身のことは、考えないのですか。あの状況は、どう考えても、姉上に、視線が、集まっていましたよ」
先ほどよりも、協調の仕方がスゴいです。
後、瞳孔開いてるのやめてください。わたくしが悪かったですわ。
「そ、そうだったの? けれど、周りを見ても皆普通でしたわよ」
「僕とエマのおかげです。殺気込めましたから」
「ごめんなさい。だってあの時のトミーったら、色気が凄かったのだもの。囲まれたりしても、なんら不思議はないと思ったのです」
「…………」
急に表情が消えたトミー。
あ、またまずいことを言ってしまいましたわ。
と思ったら、顔を真っ赤にして後ずさった。
あ、理解に時間が掛かって表情が消えたのね。
「〜〜〜〜っ」
「え、えっと、トミー?」
「もうっ。本当に貴女と言う人はっ! そのしれっと爆弾を落とすの、やめてください!」
「ご、ごめんなさい」
「行きますよ!」
そう言って、やや乱暴にわたくしの手を掴むトミー。
いつものエスコートとは全く違う、手繋ぎに驚くけれどトミーの顔は見えなかった。
髪からチラッと見える耳は赤かったのが、目に焼きついた。




