買い物です
馬車に乗って最初に向かったのは、繁華街だ。
領地の中で一番大きな繁華街らしい。
多くの人で賑わっていた。
「王都と遜色ないくらい賑やかね」
「そうですね。ちなみに何か見たいものあります?」
「そうね……。見て歩くだけでも楽しめそうだわ。迷っちゃうわ」
「それでは、母上がオススメしていたところに向かいましょうか」
「いいわね」
トミーもある程度情報は持っているとはいえ、初めての土地だ。地図と睨めっこしながら、目的地を目指す。
着いた場所は、アクセサリーショップだった。
「ここ……ですね。入ってみましょう」
「ええ」
扉を開けると、ドアベルの心地よい音がする。
店内はうるさくないけれど、キラキラしていて別世界のようだった。
キラキラしているのは、照明とアクセサリーの置いてある位置関係の計算らしい。
奥のカウンターには、美しいマダムがいた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「こんにちは。わたくしたちのことを知っていますの?」
「もちろんです。侯爵夫人からもお手紙がありまして、きっと来るだろうと」
お母様が手紙を送るほどとは。そんなにこのお店が気に入っているのね。
確かに少し見ただけでも、美しいアクセサリーが多い。
「ぜひ、色々見てください。当店は、ウィーミア湖で獲れる砂を加工したガラスのアクセサリーが自慢です」
「ウィーミア湖というのは、1番大きな湖ですか?」
「そうです。砂浜で囲まれていて、舟に乗ったりすることも出来ます」
「まあ。楽しそうですわ」
ウィーミア湖は邸から見えていたあの湖だ。
そちらも行ってみたいけれど、今はアクセサリーも見たい。
陳列されている商品を見る。ネックレスやブローチ、髪飾りなど幅広い種類がある。
値段を見て、驚いた。こんなに美しいアクセサリー達なのに、思っていたより安価だ。
「こんなに素晴らしいものなのに、どうしてこんなにお手頃価格なのですか?」
「それはガラス製品だからです。宝石よりも加工がしやすく、手に入りやすいということでこの値段を実現しています」
「そうなのですね。宝石と遜色ない美しさですわ。きっと多くの時間を費やして、努力をされてきたのですね」
「そういっていただけて光栄です。職人は我が夫なのですが、どうも人前に出るのが苦手で……」
なるほど。これほどの腕前を持つ職人、ぜひお会いしたかったけれど無理強いは良くないわね。
「貴重なお話ありがとうございます」
そう言って、再び商品を物色し始めた。
ゆっくり見て回る。なんだか触れるのは憚られて、持たずに自分で動いて様々な角度から楽しむ。
何個か見たところで、一つの商品に目が止まる。女性用ではない。
イエローが中心で、光が当たると様々な色を見せてくれる。楕円形のガラスがシンプルだけれど美しい。チェーンで繋がったタイプのカフリンクスだ。
吸い寄せられるように、手に持つ。トミーにとても似合いそうだ。
トミーを探すと、手に商品を持ちながら唸っている。髪飾りだろうか? 良く見えない。
「トミー、何かいいものがあった?」
「姉上」
わたくしが声を描けると、ハッとしたようにこちらを見た。
「これが姉上に似合いそうだと思いまして」
「わあ」
トミーの手にあったのは、翡翠色が主の髪飾りだった。銀細工で繊細な意匠、中心部分と揺れる部分に翡翠色のガラスがある。
わたくしの好み、ドストライクだわ。
「素敵ね。とても綺麗だわ」
「はい。ですが、姉上が選ぶのがいいと思いまして。いいのものがあったのですよね?」
そういってわたくしの手元を指差す。
「ああ、これはわたくしのではないわ。トミーはこういうのは好みか聞きたかったの」
「これは……」
そういって、先ほどのカフリンクスを見せる。
「トミーに似合いそうだと思って。もちろん、好みじゃなかったら無理しなくていいのだけれど」
「……ありがとうございます。とてもいいです」
「? どうしたの?」
笑いを堪えながら言うので、聞いた。
「いえ、お互いに相手の物を選んでいたというのがなんだか面白くて。特に姉上は、自分のものを選ぶと思っていたので」
「そうね。ふふ。でもそれが特に目にとまったのだもの」
しかもお互いに相手の瞳の色を選んでいるのが、なお面白い。




