デートに行きます
翌朝。朝食を済ませた後、エマに頼んで身支度を手伝ってもらう。
「お出掛けですね。承知しました。どのようなところに行くのでしょうか?」
「あんまり詳しく聞いていないの。けれど景観がいい場所と言っていたから、どちらかと言うと動きやすい服が良いわ」
「承知しました」
ああでもない、こうでもないと服装を考える。
今回はとてもシンプルに、白のワンピース。キャミソールタイプの形に、繊細なレースがあしらわれている。スカートの長さは膝より少し長いくらい。
それにツバの大きめの麦わら帽子を合わせる。白いリボンがアクセントになっていて、とても可愛い。
絵に描いたような、避暑地のお嬢様の完成だ。
髪は下ろしておく。
日焼け防止に日傘を自分で持つ。
もちろん護衛はいるけれど、きっと話をするのに2人きりに近い状態になるだろうから日傘は持っておいた方がいい。
「完璧ですね。素晴らしいです、お嬢様。画家の方がいたら、間違いなく描かせてくれと懇願されたことでしょう」
「上手ね、ありがとう。エマの見立てが素晴らしいのよ」
「ありがとうございます。それから私も同行させていただきますが、基本は少し離れたところにいます」
「ええ、よろしくね」
昨日エマにトミーと出かけることを話したところ、既にトミーから話は聞いていたらしい。あの後トミーと夕食まで一緒にいたし、もしかしてだいぶ前から計画していたのかしら。
朝食の席でも、トミーが説明してくれていた。
お父様はなんとも言えない表情をしていた。多分だけれど、自分も出かけたいという思いも混ざっている気がする。それ以上のこともあるとは思うけれど。
とはいえ、反対されることもなく、出かけることになった。
準備が整って最後の確認をしていると、扉がノックされる。
トミーも終わって、迎えにきてくれたらしい。
扉を開けて、出迎えた。
「お待たせしました。行きましょうか、トミー」
「……」
「トミー?」
話しかけるも、何故が微動だにしないトミー。
目の前でヒラヒラ手を振ると、我に返ったように咳払いをした。
「大丈夫? どこか体調悪いの?」
「い、いえっ。体調はすこぶる良好です」
「そうなの?」
「はい、その……。姉上があまりに綺麗で言葉を失っていました」
「そ、そうかしら。いつもよりシンプルなのだけれど」
トミーには、今まで様々なドレスアップ姿を見せていた。その時だって、ここまで動揺した様子はなかった。
なんだか恥ずかしくて、思わず視線を落とす。
「と、トミーはこのような感じの服装が好みなのかしら?」
「……いえ、姉上にその服装が合いすぎているというか……」
「え?」
「なんでもありません。これはエマの見立てですか?」
ゴニョゴニョ言っていたのが聞き取れず、聞き返そうとしたけれど誤魔化されてしまった。
「はい。トミー様の反応を見るに、大正解だったようで私としても頑張った甲斐があります」
「そうですね。流石、姉上のことをよくわかっていますね」
「お嬢様だけでなく、トミー様のことも考えていましたよ。すこし破壊力が強すぎたようですが」
「……大丈夫ですよ」
そしてこちらに手を伸ばすトミー。
先ほどとは違い、立派な紳士の顔をしていた。
「では姉上。今日は一日、エスコートさせてもらう名誉を頂きますね」
「ええ。よろしくね、トミー」
そして横並びになり、気がつく。
「……あら? トミーまた背が伸びた?」
「そうでしょうか? 確かにこのところ脚が痛いのですが」
「成長痛ね」
以前も視線が同じくらいになっていて驚いたばかりだったけれど、今は少しだけ視線を上にしないと目が合わない。
そんなに時間経ってないはずなのに。成長期なのね。
体格もまだ発展途上という感じだけれど、筋肉がついてきている。
顔の造りも少年から青年へ愛らしさが残りつつ、精悍さも混ざる危うい雰囲気になっている。
男の子って本当に成長が早いのね。
「ふふ。これでは流石にどっちが年上か、わからないわね」
「そんなことはないでしょう。姉上も日に日に綺麗になっていますし」
「っ。ありがとう、トミー」
危ない。撃ち抜かれるかと思った。




