参加することになりました
とはいえ。
流石に王家からのお誘いは断らない方が良いのだろう。と言うより、断ったら断ったで余計な興味を引かれる気がする。いや、断定だ。
前世での最後の恋愛。付き合うまではわたくしが積極的にアピールしていたが、いざ付き合ったらモラハラ、パワハラ、俺様至上主義のクソ野郎だったので別れようとしたら粘着された記憶。あれはそれこそ『押してダメなら引いてみろ』が悪い方向へ作用してしまった結果ではなかろうか。
元々其奴もチヤホヤされていた。外面が良かったことも相まって、常に人に囲まれているような奴だったのだ。だからこそ離れようとしたわたくしを絶対に離さないようにしたのだろう。もはや愛情なんかではなく執着である。自分の所有物を失うことが許せなかったと言うことだ。
なぜか年を重ねるごとに前世の記憶が蘇ることがある。元彼のことなんていい例だ。昔は嫌な奴という記憶しかなかった。年齢が前世に近づくにつれての作用だろうか。おかげさまで恋愛面倒臭いという12歳にあるまじき考えが根付いてしまった。
それに表面上は猫をかぶっているが、内心では令嬢にあるまじき言葉遣いをしている。逆に貴族らしいだろうと自分を納得させているが。
「ではそのお茶会というのはいつなのですか?」
「1ヶ月後だね。3人とも正装を取り寄せよう。それともオーダーメイドがいいかい?」
「お父様、わたくしたちすぐに身長も大きくなりますわ。今回は既製品で大丈夫ですわ」
それこそオーダーメイドの個性丸出しのドレスなんて、注目の的である。殿下に興味を持たれたらたまらない。埋もれるぐらいがちょうど良い。
「僕たちもへティがいいなら既製品でいいです」
お兄様が言い、トミーもコクコクと頷いている。トミーの仕草が可愛い。
お父様は少し残念そうにしながら了承してくれた。
その様子でなんとなく嫌な予感がするな、と思った。そしてその予感は早々に当たることとなる。
◇◇◇
平和な日々が流れてお茶会当日。
朝から侍女たちに磨かれていた。そこまで気合を入れなくてもと抗議したが
「ヘンリエッタお嬢様の魅力を最大限に活かさなければ侍女の名折れです!!」
とすごい剣幕で詰め寄られ、諦めた次第である。
ドレスは全体は鮮やかなスカイブルー。上部分がサテン生地のようにツルツルしていて、胸の下に紺地のリボンをつけて切り替わっている。スカートはソフトチュールで重ねており、ふんわりしている。暖かい昼間に開催されることもあり、袖はノースリーブだ。
髪はハーフアップで編み込まれている。かすみ草のような小さな花を模した髪飾りもつけられる。自然とウェーブがかかった髪が絶妙なバランスになっている。
鏡を見れば超絶美少女がそこに爆誕していた。侍女たちはそれはそれは満足げである。
「ヘンリエッタ様、とても可愛らしいです」
「これは今日はヘンリエッタ様が主役です!」
「いや、主役は殿下よ。主役より目立ってどうするの」
「殿下もメロメロになるに違いありません!」
口々に言われるが全く嬉しくない。特に最後。全く、これっぽっちも望んじゃいない。
恐らくここまで着飾ったことは前世でもないので、嬉しいが。そりゃあ年齢を合わせればアラフォーに手が届きそうだが、乙女心は失われていない。
着飾ってテンションを上げるなと言われる方が無理だ。
しかし出発する時間が近づいてきた。それと共に憂鬱な気分が大きくなってくる。思わず出そうになるため息を飲み込んで、ホールへ向かった。




