邸を探検しますわ
邸の中は大体、王都の邸と変わらない。
配置などはもちろん違うけれど書庫があったり、ダイニングがあったり、執務室があったりと必要なものは同じだ。違うのは客室が多いくらいか。
客人を呼んで、泊まってもらうということもあるので客室は多めにしているらしい。
それでも、配置が違うだけで新鮮に感じるのだから面白い。
ちなみに言うと、案内役はお母様だ。
なぜかノリノリで案内してくれている。
「それじゃあ、今度は庭園に行きましょうか」
「良いですね、母上」
「昨日食事のために出ましたけれど、見て回る余裕はなかったですからね」
「ここにはどんな花が咲いているのでしょう。楽しみですわ」
皆で庭園に向かう。
そこには、さまざまな花が咲いていた。
そして花の間から、初老の男性が見えた。こちらに気がつくと、花を避けながら向かってくる。
「これは、お揃いで」
「ええ。花を愛でようと言う話になったの。良いかしら?」
「元々、ここは皆様の庭。反対する通りはございません」
「ありがとう。花を管理しているあなたに案内してもらえれば、より楽しくなると思うのだけれどどうかしら?」
男性は外仕事の影響で、しっかり日焼けしている。
あまり表情の変わらないその様子から、寡黙であることが窺える。
そしてその印象通り、お母様の誘いに難色を示した。
「御言葉ですが、奥様。自分はただの庭師です。自分が案内しても、面白さがあるとは思えません」
「そんなことないわ。わたくしの子供達も、知識欲が高いのよ。専門の方の話を聞くことは、この子達にとって良い刺激になると思うの」
「ですが……」
「面白さを求めているわけではないの。貴方の仕事に対する姿勢は、花を見れば伝わってくるわ。1つ1つが綺麗に咲いて、病気もない。この広い庭を管理しているのに、ね。とても真摯な仕事ぶりだわ」
「あ、ありがたい御言葉です……」
まあ、庭師の方、顔を赤くして照れていらっしゃる。
そうよね。あんなに褒められたら、誰だって悪い気はしないわ。
それが仕える女主人なら尚更。
「……わかりました。自分でよろしいのなら、案内します」
「貴方が良いのですよ。よろしくね」
あ、今ので庭師が落ちたわね。
表面上は流石に変わらないけれど、雰囲気が先ほどまでと違ってとても柔らかくなっている。
さすがお母様だわ。
そんなお母様は、満足そうにしていてわたくしと目が合うと、ウインクをした。
「今の主役は、エキナセアです。暑さに強い花でこの夏の時期が見頃です。もう少ししたら、花弁が反り返っていく様を見られるようになります。赤、ピンク、オレンジ、グリーンなどさまざまな色が楽しませてくれます」
「素敵ですわ。反り返るなんてとても興味がありますわ」
「花弁が落ちた後も、花芯が残るので別の印象を見せてくれるんです」
「このポワポワしたところなのですね。2回も別の姿を見せてくれるなんて、本当に素敵ですわ」
ぜひ反り返ったところとか、花弁が落ち後の姿も見たい。
それにしても、寡黙の印象が一変して饒舌に話してくれる。
職人気質なのだろう。自分の得意や分野だと、気にせず話せるのね。
色々な花を楽しみながら、アーチを並べられた道を歩く。
目線を上に上げて、ふと気がつく。この花は。
わたくしの目線に気がついたのか、庭師が説明してくれる。
「この花はクレマチス。王都の者から聞いて、トミー様が、ベル型のクレマチスに興味があると言うことで育てました。とはいえ、もう何年も前の話なので情報が古かったら申し訳ないのですが」
「懐かしいですね。スタンホープ家に来たばかりの頃を思い出します」
トミーは目を細めながら、クレマチスを眺めている。
「最近はこうして花を愛でる機会も減ってしまって……。王都の方でも植えてくれていましたが、最近はおろそかになっていました。ありがとうございます」
「もったいないお言葉です」
わたくし達は領地に今まで訪れたことがなかった。それでも、わたくし達のことを思ってくれていたんだ。
トミーもとても嬉しそうだった。
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