家族の様子が変ですわ
支度を終え、ダイニングに向かうとお母様がいた。
珍しい。いつもお父様もいて、2人で待っていることが多いのに。
「お母様、おはようございます」
「おはよう、ヘティ。初めての長旅、疲れたでしょう。よく眠れた?」
「それはもう、半日以上寝ましたもの。お寝坊さんにも限度というものがありますわ」
わたくしの軽口に、お母様はくすくす笑う。
「お母様は大丈夫でしたか? お兄様とトミーは同じ感じだったと聞きましたが」
「わたくしも流石に疲れて、早めには寝たわ。そのために昨日は予定をあまり入れなかったしね」
「そうなのですね。それで、お父様は?」
「アレキサンダーなら、仕事をしているわ。本当なら一緒に食べたかったと、悔しがっていたけれど」
その様子が手に取るようにわかる。
数分後、お兄様とトミーも揃ったので朝食を摂った。
「昨日は邸の内部を見ることはできなかったし、把握しておきたいな」
そう言ったのは、お兄様だ。
わたくしと、トミーも同意する。
「わたくしも、せっかく1ヶ月滞在するんですもの。知っておきたいですわ」
「僕もです」
「あら、じゃあわたくしもいこうかしら」
「母上は何度もこの邸を訪れているのでは?」
「そうだけれど、数年ぶりだもの。それにあなた達とも最近時間が取れなかったから、良いでしょう?」
そう楽しそうにいうお母様。
「ではお母様が、案内してくださるのですか?」
「ええ。任せなさいな」
もしかして、お母様も久しぶりの領地ではしゃいでいるのかしら。
と思っていたけれど。
「そうすれば、アレキサンダーはもっと悔しがるもの。だから領地に来る前に、ある程度仕事は終わらせておきなさいと言ったのに」
「まあ。お父様が仕事をため込むのは珍しいですね?」
お父様は、仕事をきっちりこなす。溜め込むところなんて見たことがない。
そういうと、なぜかお兄様が気まずそうにしているのに気がついた。
「ええ。へティからも言ってあげなさい。そうすれば、もっと落ち込むから」
「……お母様、なんだかお父様に辛辣ではありませんか? それにお兄様、どうしたのです?」
「ふふ。アルもアレキサンダーが仕事を溜め込んでいたところを見ていたのよ。たまたまだけれど」
「それでなぜ……?」
ちょっと繋がりが見えない。
けれどお母様はそれ以上話さなかった。
お兄様もだ。トミーに視線を送るけれど、やはり、首を横に振られた。
なんだか家族に隠し事をされている気がする。
なんなんだろう。
けれど、お母様が言わないということは、まだ時期ではないのだろう。
聞いてもはぐらかされるだろうし、待つしかないのか。
思わずため息をつくと、お母様はくすくす笑う。
「まあ、ヘティ。淑女たるもの、人前でため息を吐いてはいけませんよ」
「……誰のせいでしょうね」
「あらあら、わたくしにはさっぱりわからないわ」
「もう……。良いですわ。お兄様に犠牲になっていただきますから」
「え⁉︎」
そこでようやくこちらを見るお兄様。
少し怯えが見えるのは、日頃の行いか。
「ええ、お兄様もこのところ様子がおかしいですから。そのことを話さないお兄様が悪いということで」
「そんなぁ」
「アル、侯爵家嫡男がそんな情けない声を出すものではありません」
「母上はどちらの味方ですか……」
なんだろう。この領地での生活、荒れそうな気がしてきた。
嫌な予感が頭を占める。
「大丈夫よ、ヘティ。悪いようにはならないわ」
「何故でしょう。いくらお母様の言葉といえど、信用なりませんわ」
そう返すと、お母様は言った。
「それはあなたが大人になった証拠よ。親の言うことを無条件に正しいと思っていた時期から、1つ階段を登ったのね」
「そう言うことではない気がします」
「そう言うことなのよ」
だめだ。やはりお母様には勝てない。
改めて、そう感じた。




