邸での生活1日目……のはずが
185話
荷物をあらかた整頓したら、遅めの昼食となった。
到着した時点でも、お昼時を過ぎていたからお腹がペコペコだ。
とはいえ、アフタヌーンティーの時間と言っても良いくらいなので、軽めのサンドイッチだ。
皆で集まるけれど、食堂ではなく庭園で摂ることになった。
風がとても気持ちいい。
日差しは強いけれど、風が吹けば気にならないくらいだ。
もちろん、淑女に日焼けは大敵なのでパラソルをしているけれど。
椅子に座って挨拶をし、サンドイッチに手を伸ばす。
野菜が挟んであるサンドイッチに齧り付く。シャキッとした歯応えと、少しスパイシーなソースのバランスがとても美味しい。
「まあ、とても美味しいですわ。王都よりも野菜が新鮮に感じます」
「王都も農業をしているけれど、こちらの方が農業に力を入れているからね。どうしても王都では地方からの輸送に頼っているから、新鮮さでは劣りやすいんだ」
「そうなのですね」
ソースも王都のものと似ているけれど、少し違う。食材の差に合わせて、少し変えているのかもしれない。
ふと視線をずらすと、シェフが少し離れたところから様子を伺っている。
お父様がシェフを呼ぶ。少し緊張した面持ちで、近づいてきた。
「腕をまた上げたね。しかも我々の好んでいる味だ」
「もったいないお言葉でございます。王都に在駐している者と手紙でやりとりしました。なるべく、旦那様方には違和感なく過ごしていただきたいのです」
「ありがとう。素晴らしい気遣いだ。ただ、我が子供達はこの土地を気に入って欲しいからね。気にしすぎないでほしい。元々君の作る料理はどれも美味しいのだから」
「はっ」
そして下がってくシェフ。うん、去り際に鼻を啜る音が聞こえた。
お父様、すごいわ。
「流石父上です。僕も、父上のようになれるよう頑張ります」
お兄様も感化されたらしく、目を輝かせている。
「今のアルなら、そのうち達成できる。調子には乗らないように」
「はい」
食事を終え、邸の中を見て回りたかったけれどお腹が満たされたことで、一気に眠気が襲ってきた。
長旅の疲れもあるかもしれない。
仕方ないので、部屋に戻って休むことにした。
トミーも疲れが見えていたので、わたくしだけではないことに少し安心する。
湯浴みは一旦昼寝してからにしたい。今なら湯船で寝てしまう気がする。
まあ湯浴みは基本、侍女に手伝ってもらうので寝ても大丈夫ではあるけれど。
それは流石に恥ずかしいので、遠慮する。
と言うことで、ある程度時間が経ったら起こしてもらうように言ってソファに横になった。
ベッドを汚したくなかったし、長寝を防ぐためだ。
けれど横になった瞬間、あっという間に夢の世界に旅立ってしまったのでよほど疲れていたらしい。
◇◇◇
「ん……」
ふかふかだ。ソファってこんなにふかふかだったかしら。
ぼんやりした意識で、ゆっくり起き上がる。そして違和感に気がついた。
「あら……? いつの間にベッドに? 確かソファで休んだはず……」
カーテンも閉まっている。寝る前は開いていたのに。
起き上がってカーテンを開けると、眩しい光に目を細める。
その太陽の位置がおかしい。
どう考えても、夕方ではない。朝だ。
「え?」
状況が理解できずに、呆然とした声が口から漏れた。
その時、扉をノックする音が聞こえて、慌てて返事をする。
入ってきたのは、エマだった。
「起きたのですね。おはようございます」
「お、おはよう、エマ。今って……」
「はい、朝です。お嬢様はあの後何度呼びかけても起きませんでしたので、旦那様をお呼びしてベッドに運んでいただきました」
「やっぱり朝……」
なんというねぼすけっぷりなのかしら。
エマは穏やかに微笑んでいる。申し訳なくなって、口を開いた。
「情けないわ。着替えさせるのも一苦労だったでしょう」
服もネグリジェに変わっていた。ここまでして起きないってすごいな自分。
「いいえ。アルフィー様もトミー様も、あの後寝てしまっていたので大丈夫ですよ。初めての長旅ですので、当然のことかと」
「ありがとう。お兄様もトミーも一緒だったのなら、少し救われるわ」
「では、まずは湯浴みをしますか?」
「ええ、お願いするわ」
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