タイミングが悪いですわ
「兄上は調子に乗せないほうがいいと、身をもって体感しました」
「ごめんなさい……」
あのあと、宿に行ってほどなくトミーは目覚めた。
ちなみに宿とは言っているけれど、貴族が泊まるために格式高くなっている。
王都から領地に帰るために、さまざまな貴族が利用する宿で対応も慣れている。
そして起きて開口一番、先ほどの発言をしたわけだ。
お兄様は今日1番と言えるくらいに、縮こまっている。わたくしたちの中では1番体格がいいのに、今では1番小さく見える。
というより、お兄様の様子がいつもと違うのよね。
先ほどの見当違いな気遣いとか、トミーへの過剰なスキンシップとか。いつものお兄様ではやらないことだし、何かあったのかしら。
「お兄様、それにしても今日ははしゃいでおられますわね。そんなに領地に帰るのが楽しみでしたの?」
「え? あ、ああ! そうなんだよ。僕も将来のスタンホープ家の当主として、領地への理解も深めたかったからね。うん」
なんだろう。絶対そういう理由ではないのが、ありありとわかる。
むしろ誤魔化すの下手すぎじゃないかしら。
1番可能性が高い理由を挙げてみたけれど、これではないわね。
トミーと目を合わせたけれど、首を横に振っていた。トミーもよく分からないようね。
こういう時のお兄様って、お父様と同じように空回りすることが多いからとても不安だわ。
ちょっと問い詰めてみましょう。
物理的に距離を縮めつつ、問いかけた。
「お兄様、目が泳いでいますわよ。どう考えても、それが理由ではありませんわね?」
「い、いやだなぁ。それじゃあ僕がまるで、不真面目みたいじゃないか。本当に領地のことも知りたいんだよ?」
「その言い方は、他にも理由があるよと言っているようなものですわね。さあ、誤魔化しても無駄ですわ。全てお話しくださいな?」
「ちょっと近いんじゃないかな? ほら、ここは我々のテリトリーではないんだし」
なんとか誤魔化そうとしているお兄様。けれどここで、ここでわたくしにとっての助け舟が出る。
「兄上。僕も気になっているので、さっさと話してください。僕らの醜聞のためにも早くしたほうが身のためですよ」
「トミー……」
お兄様が絶望の表情をしている。
この部屋に味方がいないと確定しましたからね。
トミーも近づいてきて、いよいよお兄様の逃げ場が無くなる。
お兄様、万事休す。
そう思ったけれど。
扉のノック音が聞こえた。一瞬静寂が訪れて、諦めて返事をする。
「はい」
入ってきたのはお母様だった。
3人で固まっているわたくしたちを気にせずに、話し始めた。
「3人とも、食事の時間よ。明日も早いのだから、すぐに休めるように食事も早めに摂りましょう」
「わかりました、母上。ほら、2人とも。早く行こう?」
「「…………」」
これはタイミングがとても悪い。
お兄様にとっては、救いの手だったことだろう。
悔しい。
トミーも同じ気持ちだったようで、お互い無言でお兄様を見つめた。
明らかに形勢が良くなったお兄様は、気にせずにお母様と行ってしまったけれど。
「はあ……仕方ありませんわ。わたくしたちもいきましょうか」
「そうですね」
そう言って2人で、お母様たちの跡を追う。
そういえば、トミーと並んで歩くの久しぶりだわ。最近は基本お兄様もいたし、トミーがわたくしを避けているようなそぶりもあったから、2人で歩くのはなかったわね。
そう思うと、嬉しい。この状態では避けることも出来ないとは思うけれど、普通に会話できている。
なんだかんだ最近は過保護が再熱していたけれど、少し落ち着いてきたのかな。
「姉上?」
「ふふ、楽しみだわ」
「食事がですか?」
「いいえ。トミーと、皆と領地に帰るのが」
そういうと、トミーは少し目を見開いた後。
「そうですね」
と、琥珀色の瞳を緩ませた。
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