夏休み直前ですわ
結局のところ。
わたくしにとっては運が良いというかなんというか。
3人で集まる時間を確保することが出来なかった。
原因は1つではない。例えば、わたくしの領地に帰るための準備が想像以上に大変だったとか、メアリー様がキャンベル男爵に親睦を深めようと歩み寄られたこととか。パトリシア様もなんだかんだ忙しそうにしている姿を目撃していた。
元々テストが終わって夏休みまで、2週間もなかったというもの原因だとは思う。
そんなこんなで夏休み前日、最後の登校日になってしまったと言う訳だ。
パトリシア様とメアリー様はそのせいか、表情が少し暗い。何も知らない人が見ても気がつかないとは思うけれど。
そして、あれから殿下とも話せていない。学園には来ていて、姿は教室で見かけているけれど授業中以外はとても忙しそうにしておられるので、話し掛けづらい。たまに視線を感じる気がするけれど、振り返ってもこちらを見ていないので気のせいだと思う。
とりあえず殿下は、わたくしが何かをする必要はないだろう。その役目はパトリシア様だ。そのパトリシア様が落ち込んでいるので、そっちをなんとかしないと。
けれど、最終日は色々な事が多くて話す時間も中々取れない。結局、全てが終わるまで時間は取れなかった。
わたくしはこの後、領地に帰るために早めに帰るように言われている。あまり時間がない。
「パトリシア様、メアリー様」
2人を呼んだ。
「結局、お話の時間を取れなくて申し訳ありません」
「いえ! ヘンリエッタ様のせいではありません!」
「そうですわ。タイミングが悪かったのです」
2人ともそう言ってくれるのは嬉しいですが、言動と表情が合っていませんわ。
それにしても、ここまで気にするとは。わたくしのことは気にしなくていいのに。態度でもここ数日は示していたはずなのだけれど、優しすぎるというかなんというか。
「ありがとうございます。それでお時間を取れなかったので、もしよろしければ文通で伝えてくだされば嬉しいですわ」
「文通……」
「はい。時間はかかってしまいますが、せめてそれくらいなら」
「ありがとうございます、ヘンリエッタ様。そうですわね。話す以外にも方法はありますわね」
少し顔色を良くしたパトリシア様に、ホッとする。メアリー様も同意してくれた。
と、急に表情を引き締めたパトリシア様。思わずこちらも背筋が伸びる。
「ただ、これだけは言わせてください。ヘンリエッタ様、わたくしと殿下はまだ決まったわけではありませんの」
「まあ……」
ああ、なるほど。正式決定はまだなのね。
「承知しましたわ。もちろん、家族にも言いませんから、安心してくださいませ」
「ええ」
「ちょ、ちょっとパトリシア様っ」
なぜかメアリー様が、さらに顔色を悪くしてパトリシア様に詰め寄った。
その時、トミーとお兄様が廊下からこちらを覗いて声を掛けてきた。
「へティ、そろそろ大丈夫かい?」
「あ、はい! それではお2人とも、お手紙書きますわね。お気をつけてお帰りくださいませ」
「あっ、えっ⁉︎」
声をかけると、動揺した様子のパトリシア様がバッと効果音が付きそうなほどの勢いで、こちらを見た。けれど口をぱくぱくさせるだけで、何も言えないようだ。
ううん? 何があったのでしょう?
「パトリシア様、大丈夫ですか?」
「あ、あの。ヘンリエッタ様、違うのです。ちが……」
……ああ! もしかして、言い方的にわたくしが傷ついたと勘違いしてしまったのかしら?
確かに現実を突きつけられたけれど、日数も経っているので取り繕うのは問題ないくらいだ。あまりにも普通にしていてパトリシア様は気がつかなかったけれど、メアリー様に言われて気づいたとか?
今の状況から考えられるのは、こういう感じね。
ならばわたくしがすることは1つ。
パトリシア様の手をわたくしの手で包み込む。そして、不自然にならないように微笑んだ。
「大丈夫ですわ、パトリシア様。わたくしのことはお気になさらず。夏休みをお楽しみくださいね」
そう言って手を離し、2人に手を振った。
「では、ごきげんよう」
「あ、ごきげんよう……」
「…………」
パトリシア様は放心状態になってしまったけれど、この場合はわたくしがいると良くない気がする。
そう思ってメアリー様に目配せして、フォローをお願いした。
頷くより、泣きそうな顔をしたメアリー様だけれど、きっと大丈夫。力強くわたくしは頷いて、2人とわかれた。




