お姫様抱っこ再び
「実は社交界でも、その関係者が色々やらかしているらしいんだ。これはへティが寝ている間に聞いたことなんだけれどね」
「そうでしょうね。とっても簡単に想像できますわ」
むしろ、彼女たちは親に洗脳されたようなものだろう。そう考えると気の毒な気もしてしまうが、それでもパトリシア様やメアリー様を貶したことを許せるわけではない。
彼女たちがこれから、良い方向に変わってくれることを祈ることしか出来ない。
「へティは優しいね」
「え?」
「彼女たちを救済できないかと、思っているんじゃないかい?」
「……そうですわね。環境が違えば、違う結果になったのではないかと思いましたわ」
けれどそれはわたくしのすることではない。わたくしは被害者で、彼女たちは加害者。被害者が施しを与えるなど、それこそスタンホープ侯爵家にどのような噂が立つかわからない。
わたくしが優先するべきは、家と友人。天秤を間違えてはいけない。
彼女たち自身を救済するのは、優先事項ではない。
「彼女たちだけでなく……親の操り人形のようになっている人たちを、掬い上げられるような政策が必要だと思いました」
「そうか……」
「けれど貴族社会である以上、親も子も家を繁栄させるための役目が重要です。ここを変えるのは困難でしょう」
それこそ、貴族社会そのものを変えるという話になるでしょう。
貴族は自身すらも、政略の駒として見る必要があるわ。
わたくしの気持ちをうまく割り切るまでには、もう少し時間がかかりそうだわ。
お兄様を見つめて、微笑む。
「大丈夫ですわ。わたくしは、スタンホープ侯爵家の長女。私情で動くような浅はかな行動はしません」
「うん。そこは信頼しているよ。じゃあこの話はこれで終わろう」
「そうですわね。お兄様、わたくしの代わりにありがとうございました」
「これくらい、どうってことないさ。トミーにはやり過ぎだと、止められてしまったけれど」
「トミーが遠い目をしていたので、この場合はお兄様が暴走しすぎなのですわ」
「手厳しいなぁ」
お兄様は困ったように、頬を掻いている。
うん、今回は見ていないけれど、トミーの時のお兄様はすごかったからね。
と、話を変えようとお兄様は手を合わせる。
「そうだ、もうすぐ夏休みだね。せっかくだから、領地に戻らないかという話が出ているんだけれど、ヘティはどう思う?」
「領地ですか……そういえば、一度も行ったことがありませんでしたわ」
「そうなんだ。どうしても殿下との交流もあったからね。中々帰る機会がなかったんだ。今年はどうかなって母上が言っていた」
「殿下……」
その瞬間、急に思い出した。わたくし、本当ならパトリシア様と殿下の仲を応援するつもりだったのだわ。
すっかり忘れていた。前日まで、というか昨日ね。昨日までそれで頭がいっぱいだったのに。
それより爆弾持ってきたんだものね。仕方ない……わ。
え? 仕方ないよね?
誰に確認しているのかわからないけれど、思わず確認してしまう。
「……ティ、ヘティ?」
「あ、はい! 申し訳ありません。ぼんやりしてしまいましたわ」
「いや、良いんだ。疲れたかい?」
「そうかもしれません」
ただ思い出して焦っていただけだけれど、悟られたくもないので疲れたことにさせてもらう。
すいません、お兄様。
「ごめんね。話が長くなってしまった。部屋まで送ろう」
「そこまでしていただかなくても、大丈夫ですわ――」
言い終わる直前。お兄様がさっと近づいてきて、横抱きに抱えられてしまった。
お姫様抱っこ再び。
「お、お兄様。流石に歩けますわ。降ろしてください」
「いやぁ、トミーがお姫様抱っこしたと聞いて、羨ましかったんだよ。僕もへティを抱っこしたいなと思って」
「えぇ……」
もうなんといえば良いやら。
トミーも成長したと思ったけれど、お兄様かなり体が出来上がっていますわ。
顔近いし、色気がすごいわ。これはわたくしが知らないだけで、お兄様ってかなりモテているのでは。
「ハハッ。まぁ僕の我儘に付き合っておくれ」
そうご機嫌に言った。




