ディナーです
「さて、方針も決まったことだし、ディナーにしたいんだけれど。へティ、食べられそうかい?」
お父様に言われて、ふと自分の状態を確認する。ずっと寝ていたけれど、昼食も食べていなかったのと魔力が欠乏したためか、空腹を感じる。
「はい、お腹が空きましたわ。今日はわたくしたちの慰労会ということでしょう? とても楽しみですわ」
「ああ、ではアルが帰ってきたら食事としよう。へティはもう少し休んでおくといい」
「ありがとうございます」
そう言って、お父様、トミーも退室する。お母様はこちらを見つめて、にっこり笑った。
「これからが楽しみね、へティ」
「え?」
「ふふ、わたくしの話よ。それじゃあ、後で」
謎な言葉を残して、お母様も退室してしまう。
どういうことなのだろう。雰囲気的に、朝のことではなさそう。
考えてみるけれど、全く検討もつかないので諦めた。
◇◇◇
お兄様も帰ってきたので、ディナーは予定通り行われることになった。
お父様がいつもより豪勢に、という話をしたためにいつもよりずっとめかしこむことになったのは想定外だった。
準備をしたエマたちが、どこかぎらついた目をしていたので一歩下がってしまったわたくしは悪くないと思う。
あれよあれよと着替えさせられる。
イブニングドレスは、胸元がVネックで大きく開いている。胸の谷間がぎりぎり見えない際どいラインを計算している。色味は紺色。
胸元のV字を作っている生地がそのまま袖に繋がっていて、ケープのように肩を覆っている。肘まで隠す手袋をすれば、服装は完璧。
髪も丁寧に結い上げられて、ドレスに合う髪飾りもつければ完成だ。
エマたちも満足げな表情をしているし、自分で言うのもなんだけれどとても似合っている。
準備を終えたところで、ディナーの準備もできたらしく、ダイニングに向かった。
皆が席につき、お父様がワイングラスを手に持つ。
お父様とお母様はワインだけれど、わたくしたちはまだ葡萄ジュースだ。デビュタントを迎えるまで、飲酒は禁止されている。
「私の大切な子どもたち。テストお疲れ様。3人とも優秀な成績を収めて、私としても鼻が高い。さすが自慢の子供達だ。それでは乾杯」
「「「乾杯」」」
食事はいつも以上に美味しかった。シェフがいつも以上に力を入れてくれたのもそうだろうけれど、‘’祝う‘’というのが全面に出ているのも理由の一つだと思う。
楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。
皆デザートも食べ終えて、食後のお茶を楽しむ。
ふと、お兄様に声をかけられた。
「へティ、後で話がしたいんだ。いいかな?」
「もちろんですわ。わたくしも色々話したいと思いますの。けれど、お父様とも話すことがあるのではないですか?」
「問題ないよ、ヘティ。先にある程度のことは聞いている。今日は時間も押してきているし、明日でも構わない」
お父様がそう言ってくれたので、ではと頷いた。
「トミーも来ますか? 当事者の一人ですし」
わたくしが聞くと、トミーは首を横に振った。
「僕は美味しいところだけ掻っ攫ったに過ぎません。明日にでも、報告してくれれば十分です」
「本当に、立派になったのね……。わたくし、置いて行かれていますわ。もっと頑張らないと」
「テストでは姉上の方が上でしたが」
「所詮は学園の中の知識ですもの。知識があっても、使いこなせなければ意味がありませんわ」
そんな話をしていると、お兄様が話に入ってくる。
「うん。じゃあ2人とも優秀ということだね。方向性が違っても、2人が優秀であることに変わりはない」
「アルのいう通りだね。方向性が違うのだから、高め合えるといいね」
お父様も同意する。
「確かにそうですわね。トミー、一緒に頑張りましょう」
「はい。よろしくお願いします」
「ふふっ。素晴らしいわね」
お母様が笑い、釣られるようにダイニングが笑いで満たされた。




