トミーの成長
パトリシア様と同じことを言った。
「まあ……」
もはやなんと言えば良いかわからず、固まってしまう。
お父様もお母様も、にこやかに笑っている。お父様の狂気はいつの間にか、霧散したようで安心だ。
「ええと……そうですわね。お父様、こういう時はどうするのが良いのでしょうか?」
分からないので、お父様に丸投げする。
その時、ノックの音が響く。入室を促すと、トミーが入ってきた。
その表情は険しい。
「トミー、どうしたの?」
「すいません。姉上の様子が気になったので伺ったら、起きていたようなので。少し話を聞かせてもらいました」
「そうなのね。それよりトミー、学園ではありがとう。途中で気絶してしまって申し訳ないわ」
「僕は全く気にしていません。いいえ、彼女たちへは腑が煮えくり返っていますが」
「それじゃあ、トミーは何か考えがあるのかな?」
お父様がトミーに尋ねる。トミーはお父様に向き合って言った。
「僕の考えとしては、彼女たちは退学でいいかと。理由としては父上と同じです」
「けれど……」
わたくしの小さな反論は、トミーに届いたようだ。再びこちらを見るトミー。
「姉上。こういう時は、情状酌量の余地はない方が賢明です。今回のことだけではなく、これからのために。仮に今回、謝罪で済ませたとしてまた同じことが起こるかもしれません。それは内心、僕たちを侮っているから。‘’情に訴えれば、都合のいいように操れる‘’なんて思われるかもしれません。それを防ぐためにも、敵対するものには容赦しないと示すのも必要です」
「…………」
わたくしは驚きのあまり、声が出なかった。
トミーはわたくしより年下なのに、わたくしより広い視野で見ていた。わたくし個人のことだけではなく、侯爵家の未来も考えて。
……わたくしの中では、可愛くて後をついてくるような弟だったのに。
まだ成人の年齢ではないけれど、立派な大人になっていたのね。
「トミーの言うことも勿論だね」
お父様も、概ね同意のようだ。
「はい。わたくし、まだまだ未熟でしたわ。恥ずかしい限りです」
軽く息を吐いて、お父様を見つめた。
「申し訳ありません、お父様。お父様の決定に従いますわ。スタンホープ家のために」
「わかった。パトリシア嬢もね、トミーに言われて考えを改めていたよ。というか彼女の考える罰が周りから見ると、優しかったからね」
そういえば気を失う直前、ディグビー公爵家として後悔させてやるって言ってたわ。
それより、今はトミーよね。
トミーに向き合い、その手を取った。
入学時にはまだ下にあった目線が、ほとんど同じになっている。琥珀の目を見つめて言う。
「あ、姉上?」
「トミー。ありがとう。貴方はいつの間にか、わたくしより大人になっていたのね」
「い、いえ。そんなことは」
「ごめんなさい。いつまでも子供扱いしてしまって。貴方がいれば、この先も安心だわ」
「……」
顔を赤くして、黙り込んでしまうトミー。
繋がった手から温もりを感じて、ふと思った。
「……そう言えばトミー。わたくしが寝ている間、そばにいてくれたのかしら?」
「え? 急にどうしたんですか?」
「左手が温かかったのを思い出したの。もしかしてトミーかしらって」
「それは……僕ではないです」
「そうなの? では誰かしら? お兄様?」
「えっと……とりあえず兄上は今、ここにいないので違います」
お兄様がいない? だからまだ部屋に来ないのね。
「アルはこの件は自分に任せてほしいと、まだ学園にいるの。もうそろそろ帰ってくると思うけれど」
お母様が教えてくれた。
「僕より話を聞いた兄上が怒り狂って、止める羽目になりました。前にもこんなことがありましたね」
ああ、トミーが侮られていた時か。トミーが遠い目をしている。
「何から何まで、ごめんなさいねトミー」
「まあへティ。きっとその温もりの正体は、近いうちに気づくわよ」
そうお母様は、ウインクした。




