わたくしは退場のようです
「朝から教室内が騒がしいと思えば……全く、いつからここはこんなに品性がなくなってしまったのかしら」
「パトリシア様」
いつから居たのだろう。きっと話聞かれていたわね。
突然の公爵令嬢、いや、貶めていた相手が現れたものだから、お花畑の方々も血の気が引いている。
未だわたくしの手は力が入ったままだけれど、痛みを感じる余裕すらなくなってしまったようだった。
それならパトリシア様もいる特進クラスに来るなよ、と思う。
もしかして、わたくしが喜んでパトリシア様と火花を散らすから大丈夫と確信していたのかしら。
そんなはずはないのに。やはり、お花畑だわ。
パトリシア様がこちらに近づいてくる。話を聞いていたのなら、ここでパトリシア様も軽蔑するはず。一旦場を譲ろうかしら。
そう考えたのも束の間、パトリシア様はわたくしの手を取った。
「ヘンリエッタ様、まずは深呼吸ですわ。このままだと教室が水浸しになってしまいます」
取った手をそのまま優しく撫でられる。くすぐったいけれど、暖かくて気持ちいい。
いや、どうやらわたくしの体が冷えているらしい。
おかしいな。さっきまであんなに体が熱かったのに。
「魔力が欠乏しかけていますわ。トミー様、来たのならヘンリエッタ様を保健室まで運んでくださいまし」
その言葉に驚いて教室の入り口に視線を移す。パトリシア様のいう通り、そこにはトミーがいた。
あ、般若状態。もしかしてわたくしの魔力に気がついて、飛んできましたわね。
わたくしの視線に気がついて、般若はすぐに引っ込んだけれど。
そのまま近づいてきて、お姫様抱っこされてしまった。
「まあ、トミー。歩けますわ、おろしてください」
「姉上を抱き上げなかった場合、この目の前にいる礼儀知らずたちを吹き飛ばしますがよろしいですか?」
真顔で言わないで。なぜにわたくし以上に怒っているのですか。
そして今度は分かりやすく悲鳴をあげる人たち。というか泣いてるわ。わたくしが泣かせたかったわ。
「ヘンリエッタ様。トミー様の為にも運ばれてください」
「はい……」
うん、トミーが不利になってしまうようなことは避けよう。
それにしても、わたくしの体を軽々持ち上げるなんて。いつの間に大きくなったのかしら。
そんなトミーだけれど、可愛らしいいつもの表情から考えられないほどの、冷たい表情をしている。
そしてトーンを落とした声で、言い放った。
「今回は姉上のために何もしない。ただ、次に近づいてきた時は命はないものと思え。命拾いしたな」
「ひ、申し訳……あ……」
「僕に謝っている時点で反省が見られないな。やはり吹き飛ばすか」
容赦ない。流石にこんなに怒っているトミーは初めて見たわ。
何か言いたいのだけれど、うまく言葉が出ない。視界が霞んできている。
あ、わたくし限界なのか。このまま意識を手放したいけれど、こいつらの前で不恰好な姿なんて見せたくない。
「気持ちはわかりますが、ここはわたくしに任せてください。ディグビー公爵家に喧嘩を売ったその意味を、骨の髄まで思い知らせて差し上げなくては」
「パトリシア嬢でしたら、そのくらい苦ではないでしょう。スタンホープ侯爵家も何かあったら協力しますよ」
「頼もしいわ。その時はよろしくお願いしますわ。……メアリー様!」
「は、はいっ」
「申し訳ありませんが、アルフィー様を呼んで来てくださらない? わたくしも後ですぐにヘンリエッタ様のところへ行きますから」
「わかりましたっ。お任せください!」
一度こちらに会釈して、メアリー様は教室を飛び出していった。
ああ、やはりパトリシア様は聞いていたのね。本当なら聞かせたくなかったなぁ。
流石に今回のことは、パトリシア様も家を持ち出すのね。当然だわ。
ここまでコケにされて、黙っていては家の沽券にも関わる。いくら平等とはいえ、そもそも人を貶めようとする時点で救いようがないのだけれど。
というかこの人たち、なんで今更きたのかしら。全く関わり合いがなかったのに。後で調べる必要がありそうだわ。
そんなことを考えていたけれど、ついに限界がきてわたくしの意識は暗闇に沈んでいった。
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