大丈夫に見せますわ!
とりあえず、泣いてしまったせいで腫れてしまった瞼をなんとかしないと。
ここは割り切って、エマを呼ぶ。自分で用意しようにも、途中で絶対に誰かに見られてしまうからだ。
こういう時は、家に使用人がいるのも不便に感じてしまう。いつもはとても有難いんだけれど。
エマは少し驚いた顔をしていたけれど、瞼の腫れを引かせたいと言えば何も聞かずに、冷水を用意してくれた。
本当にありがたい。
何度か冷やして、朝食の時間になるころにはなんとかいつもと変わらない顔になる。
気合を入れ直して、制服に着替えた。
エマにはもう少し1人で居たいと伝えて、退出してもらう。振り回してしまって申し訳ない。
「まずは、最初の関門ね。わたくしの家族は皆こういう時すぐに気がつくから、まずは気がつかれないようにしないと」
かなり難しいことだ。特にお母様は、こういう時心でも読んでいるんじゃないかってくらいに察してしまうから。
うん。気合い入れ直したけれど、早速無理そう。こういう時は、気がつかれても仕方がない。
お母様は相手に話す気がないとわかると、無理には聞き出してこないからそこを狙おう。
‘’大丈夫ですよ‘’という雰囲気を出しておけば、とりあえずはそっとして置いてくれるはず。
決意はしたけれど、多分触れられたら感情が荒ぶると思うから、そういう話を持ってこさせないようにしよう。
そうしたらあとは、時間が解決してくれるはず。
「なんとか朝食の場は乗り切る算段がついたとして、次は学園ね」
昨日メアリー様とダニエル様に狼狽えてしまったところを見られてしまっている。
ダニエル様はあんまり踏み込んでこないと思うけれど、問題はメアリー様だ。
優しい彼女のことだから、きっと踏み込んでくると思う。
その時はなんと言って、納得させよう。
兎にも角にも、謝罪か。そして笑顔。笑顔だ。家族に見せる以上に‘’大丈夫ですよ‘’アピールをすれば、さすがに踏み込んでこないでしょう。
よし、あとはわたくしの淑女教育の成果を見せる時だわ。
絶対に余計な心配はかけないんだから。
大きく深呼吸して、両手で頬を叩いた。
ビリビリとした痛みが、わたくしの気持ちを落ち着かせてくれる。
「さあ、行きますわよ」
そう呟いて、扉を開けた。
「おはよう。へティ」
「ひゃっ。……お兄様! なぜ扉の前に?」
「そろそろへティが来るかなって思って」
「……えっと。それ、他の方にしないでくださいね? お兄様が不審者になってしまいますわ」
「いやぁ、昨日へティが夕食を食べなかったと聞いたから、心配になってしまってね」
だからと言って、扉の前に待機します? ダイニングで待っていただきたかったですわ。
……扉は厚いし、そもそも扉から離れた位置で気合を入れてたから聞かれてはいないはず。
大丈夫……のはず。まさか、こんないきなり来るなんて予想してなかったわ。
本当にシスコンなんだから。育てたのわたくしですけれど。あ、でも元からシスコン説あるんだった。
「一晩寝たら、良くなりましたわ。せっかくですので、ダイニングまでエスコートしてくださいな」
「可愛い妹の頼みなら、断れないな。喜んで。僕のお姫様」
にっこり笑って、手をとってくれる。そういえば、お兄様にエスコートしてもらうの久しぶりだわ。
こんなに筋肉質だったのね。ダンスしたら、すごい安心感ありそう。
殿下はこう比べてしまうと、まだ華奢な方だわ。魔物退治してはいるけれど、騎士ではないものね。
殿下の姿を思い浮かべた途端に、胸がどきりと高鳴る。
その事実に驚いてしまった。
(嘘でしょう⁉︎ 今までこんなことなかったのに……! 落ち着きなさい、ヘンリエッタ。わたくしは淑女淑女淑女……)
念仏のように心の中で唱えていると、お兄様が覗き込んできた。
「どうしたんだい?」
「お兄様の体の逞しさに、見惚れておりましたの」
「そう言われると照れるなぁ。でもありがとう」
よし! 誤魔化せたわ! セーフだわ!
今ので少し不安になったけれど、根性で乗り切ろう。頑張れ、ヘンリエッタ。
お兄様と会話しながら、心は荒ぶっていた。
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