【幕間】 侯爵令息と公爵令嬢②
「ところでへティもメアリー嬢もいないのは珍しいね?」
「お2人とも先生に呼ばれていますの」
「なるほど。……ところで、最近パトリシア嬢もメアリー嬢も面白いことをしているみたいだね?」
「え、ええと」
バレている。十中八九ヘンリエッタが話したのだろう。でなければ学年が違うアルフィーが知る術がない。
アルフィーは笑いを堪えながら言った。
「ふふ。へティは中々にやり返しがキツかったんじゃないかい? 僕もその昔にやり返されたことがあったから、想像がついてしまうよ」
「そうなんですの?」
「ああ。あの時のへティは怖かったよ。いや、傾国の魔女になるかと心配してしまった」
「……ああ」
パトリシアは思い返す。確かにハニートラップとして考えるのならば、素晴らしい物だったと思う。何せ、パトリシアが気絶するくらいだ。
淑女教育もきちんと受けているヘンリエッタだから、誰彼構わずやるとは思っていないけれど、ダニエルにもやるようになったのは大丈夫なのだろうか。
「へティは疲弊していたけれど、兄としては気にしていることが嬉しいよ」
「疲弊していたんですか」
「そう。普段振り回しているへティが振り回されているみたいだね?」
「振り回せているんですか……」
パトリシアはそう言ったことで、ヘンリエッタに勝てたことがないので嬉しく感じてまう。
しかし途中でやり返されたし、これ以上何かすれば10倍になって帰ってきそうだからやる気はないけれど。
ニコニコしているアルフィーに、なんとなく違和感を感じてしまう。
「アルフィー様は、トミー様を応援されているのではないのですか?」
「そうだね。僕にとって大切な家族だ。2人の幸せを常に願っているよ」
昔を懐かしむようなアルフィー。トミーとくっつけようとして、ヘンリエッタに返り討ちにあったことを思い出す。
その時と似ている状況に、笑ってしまうのだ。
「それならば、わたくしたちのしていることを止めます?」
「いや、止めないよ。トミーが協力してくれって言ったら変わるけれど。そうではないのに、引っ掻き回すのもね。それに2人も変わってきているようだし」
「……わたくしのやっていることは、良くないことでしょうか?」
「いいや。それは間違いではないよ。正解がないと言えば良いかな。へティも本気で嫌がっているわけでは無さそうだし。強いて言えば、手加減することくらいじゃないかな?」
じゃないと後が怖いと笑うアルフィー。
どうやらその点では、全く同じ意見のようだ。
「パトリシア嬢は辛くないかい?」
メアリーにも聞かれたこと。辛くないと言い切ることは出来ない。
「正直に言えば、胸は痛みますわ。けれど、わたくしはヘンリエッタ様の幸せも願っております。助けになれるのなら、助けになりたいのです」
「……いい子だね、パトリシア嬢」
そう言って、アルフィーはパトリシアの頭を撫でた。
大きくて、暖かい手に心臓が跳ねた。
「……わ、わたくしは妹ではないのですが」
「そうだね。けれど成長は見てきたよ。頑張った子にはちゃんとご褒美をあげないと」
「言っていることが父ですわ。……ああ、ヘンリエッタ様たちの前にアルフィー様が婚約者を見つけないといけませんわね? ご自分のことは考えていらっしゃいますの?」
「それを言われると、頭が痛い。けれど周りが騒ぎを起こすから気になって、自分のことは気にしていられないよ」
パトリシアの頭から手が離れる。なんとなく寂しく感じてしまう。
「確かにヘンリエッタ様もトミー様も、色々大小構わずやらかしていらっしゃいますわね」
「僕はその中にパトリシア嬢も入っているんだけどな。今回のことも心配しているんだよ」
「まあ。先ほども言いましたが、わたくしは妹ではありませんわ」
「うん。とても素敵な淑女だよ」
その手の賛辞は言われ慣れているはずなのに、顔に熱が集まるのを感じた。
「父上に言わせれば、僕は理想論が好きらしい。けれど、皆が幸せになれる道を見つけられたらそれは素晴らしいことだろう。へティもトミーもパトリシア嬢も。幸せになれる道を、僕も探したいんだ」
そういったアルフィーを、パトリシアはとても眩しく感じた。




