【幕間】侯爵令息と公爵令嬢
ここ数日。ディグビー公爵家令嬢、パトリシアは悩んでいた。学園の廊下を歩きながら、物思いに耽る。
悩みの種は自身の友人、ヘンリエッタのことである。
パトリシアはヘンリエッタのことを大切に思っている。幼少期から何度も、自分を救ってくれた彼女。
きっとヘンリエッタはそんな風に思っていない。けれどパトリシアはどうも言葉選びが下手で、他者と軋轢を生みやすい。
そのたびにヘンリエッタは向き合ってくれた。おかげでコミュニケーションもだいぶ改善されたのだ。
そのヘンリエッタが、自分の気持ちに気が付かずにいる。初めの頃は自分のせいではないかと悩んでいたパトリシアだが、周りの助けやヘンリエッタの話を聞くことでその悩みは解消された。
ヘンリエッタの過去を聞いて、力になりたいと心から思った。
だからこそ、メアリーに相談してヘンリエッタに自分の気持ちを自覚してもらえるように動いた。
ここで勘違いしないでもらいたいのが、パトリシアは変わらずフレディを慕っているということだ。
婚約者となり、ずっとフレディの隣にいたいという想いもある。
けれどパトリシアは自分のことより、ヘンリエッタに幸せになってもらいたいと思った。
ヘンリエッタが前世の話をしてくれた時、ライバルになりたいとパトリシアは言った。けれどその気持ちも変わりつつある。
恩返し、ということも違う。何故なら、ヘンリエッタが心から変わりたいと思っていないことも理解してるからだ。
メアリー曰く、恋愛ごとを恐れているヘンリエッタ。それを自覚してなお、変わりたいとは言わなかった。
もちろんパトリシアへの遠慮もあるのだろう。それならば、自分の思うように行動しても良いだろうとパトリシアは考えた。
相談に乗ってくれたメアリーは、協力すると力強く頷いてくれた。同時にパトリシアの心情も気にしてくれて、辛くないのかと心配そうに聞かれた。
自分の心情を全て話せば、メアリーは無理しないでくださいと言ってくれる。
そのことが嬉しい。本当に友人に恵まれていると、パトリシアは感謝した。
そして立てた計画は、うまくいきすぎて刺激が強かったのは予想外だった。途中で気絶してしまい、恥ずかしい。
フレディとダニエルが退室した後、ヘンリエッタにネチネチ責められたのは堪えたけれど、逆にうまくいっているのではないとパトリシアは思った。
基本的にヘンリエッタが八つ当たりじみたことをするのは、図星だったといっているようなものだから。もしかしたら、何か変化が起きているのかもしれない。
胸の痛みはもちろんあるけれど、喜びもそれ以上に感じた。どうか、幸せになってほしい。
とはいえ、もう同じようなことは通じないだろう。しばらくは大人しくしていないと、報復を受けそうだ。
そんな風に考え事をしていたから、角から現れた人影に反応できなかった。
「きゃあっ」
「っと」
人影が倒れそうになるパトリシアを支えてくれる。
この感じ、どこかで見た。思考が記憶の引き出しを開けようとするけれど、まずは支えてくれた人にお礼を言わないと。
「申し訳ありません。……あら、アルフィー様」
「パトリシア嬢。大丈夫かい?」
支えてくれたのはヘンリエッタの兄、アルフィーだった。
ヘンリエッタの髪色と同じだけれど、癖のない髪が揺れる。夜空を思わせるような紺碧の瞳が覗き込んできた。
その距離感を自覚した瞬間、心臓が跳ねて体温が急上昇する。
(こここここんな近いんですの⁉︎ ヘンリエッタ様の時に見ていましたが、自分が体験すると全く違いますわ! 何故ヘンリエッタ様も殿下も見た目はあんなに平静でいられたのでしょう)
混乱のあまり、声が出ない。
アルフィーはそっと離れた。
「すまない、近すぎたね。大丈夫?」
「は、はい。ご迷惑をおかけしました」
顔が赤いのはバレているだろうに、触れてこないアルフィーに少し安心する。
ヘンリエッタならからかってきているはず。また黒歴史とやらが増えるところだった。
深呼吸して、なんとか気持ちを落ち着かせた。
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