クッキー事件⑧
「ヘンリエッタ様! 私たちは本当にヘンリエッタ様の作るクッキーが好きなのです! これからも持ってきてください!」
「わたくしが作っているわけではないのだけれど」
「今回の作戦だって、ヘンリエッタ様のクッキーが素晴らしいから実現したんですっ」
「聞いてます?」
メアリー様が暴走してきている気がする。
「……はあ。まあメアリー様が色々考えたことは伝わりました」
「ヘンリエッタ様!」
「ただ、何点か苦情を言わせていただきますわ」
「はいっ」
メアリー様が返事と共に、ビシッと敬礼をする。軍隊?
突っ込むと話が進まないので、やめておきましょう。
「まず一つ。わたくしのものをダシに使うのであれば、それ相応の覚悟をお持ちください。まあ、途中で暴走したわたくしもいましたが、ダニエル様にせっかくアーンをするチャンスだったというのに」
「え」
「ああ。もしかしてする方より、される方がお好みでしたか? それはわたくしの配慮不足ですわね。申し訳ありません」
「ち、違います!」
顔を赤くして、全力で拒絶するメアリー様。
「あら。せっかくのチャンスを活用しないのですか?」
「ダダダダダニエル様にアーンなんて、無理です! 私の目が先に潰れます!」
「潰れませんわ。ねぇ、パトリシア様?」
「わ、私に聞くのですか?」
「ええ。せっかくなので殿下にやればよろしかったのですわ。わたくしの代わりに」
「何をおっしゃいますの⁉︎ 無理ですわ!」
「まあ! お2人とも、そんな照れていては恋愛を叶えるなど夢のまた夢! それにわたくしを応援しようというのなら、そのくらいはできるようになって頂けなければ認めませんわ!」
「な、なんですって⁉︎」
「当然ですわ。わたくしはお2人のおかげで恥ずかしい思いをしたのですから、このくらいの報復くらい大人しく受けてくださいませ」
「こ、こんな風になるなんて予想できませんよ!」
「では、予想できなかった方が悪いということで」
「ヘンリエッタ様がめちゃくちゃですぅ」
2人ともオロオロしてしまっている。まだ腹の虫が治らないけれど、その様子を見て少し落ち着くことができた。
我ながら性格が悪い。八つ当たりも多分に含まれているのだから。
「まあ、この話は一旦置いておきましょう。永遠に文句が出てきそうですわ」
「怖い」
「それで、メアリー様。少し気になったのですけれど」
「はい?」
「計画を立てたのはメアリー様ということですわね?」
「はい」
「わたくしではどうすれば良いか、全く分かりませんでしたもの」
「なるほど。……つかぬことを聞きますが、前世では恋愛漫画を読んでいたのですか?」
「そうですね。結構そういうのが好きで。自分自身に恋愛の気配が全くなかったのもあったので、疑似恋愛のような状態でした」
……大体予想していたけれど、その通りだった。
「そうですか。通りで……」
「わ、私、何かおかしかったですか⁉︎」
「そうではないのです。ただ……」
「ただ?」
「……随分、古めの手法を使うなと思いましたわ」
「がーーん‼︎」
「メアリー様⁉︎」
うん、ごめん。率直な意見です。
メアリー様は、地面とお友達になってしまった。パトリシア様が慌てて一緒にしゃがむ。
「古め……」
「ヘンリエッタ様、古めとは?」
「えっと、その。言葉を選ばすに言いますと、確かに角でぶつかるとか差し入れのお菓子とかで距離を縮めるということはありますわ。けれどわたくしの時はもはやネタ……面白い要素として取られていた部分もあったので」
「ええ⁉︎ ネットでよく見かけたので、理想の出会いだと思ったのですが」
「……もしかして、芋けんぴの件も考えました?」
「はい……。芋けんぴに代わるものがなくて、諦めました」
「……」
‘’芋けんぴ、髪についていたよ‘’で恋に落ちると思います? と聞きたくなってしまったが、あまりにもメアリー様が落ち込んでいたので言葉を飲み込んだ。
1つ言えるのは、芋けんぴに代わるものがなくて良かったなということである。




