クッキー事件⑦
カフェエリアに戻ると、ぎこちない雰囲気がまだ漂っていた。
まあ、それはそうか。あ、これ以上考えてはいけない。
この際だから、パトリシア様とメアリー様を問いただすことだけを考えよう。
「ただいま戻りました。皆様目が覚めたようで何よりです」
「おかえり。じゃあ私はダニエルに話があるから、先に行くよ。クッキーご馳走さま」
「喜んでいただけたようで何よりですわ。ああ、ダニエル様は結局召し上がっていませんわね。せっかくですし、お持ち帰りください」
「こ、この状態になって食べられると――」
「ダニエル?」
「申し訳ありません」
何があったのか知らないけれど、ダニエル様が殿下を恐れている。今回のことはダニエル様は完全にとばっちりだと思うのだけれど。
まあ、良いか。ダニエル様があまりにも食い下がるから、事態が悪化したということにしよう。
考えるのはもう放棄だ。
「それじゃあ、また明日」
「ああ、また明日」
そう言って、殿下はダニエル様を引きずっていく。
うん、実際には引きずっていないけれど、ドナドナされているように見えてしまうから間違っていない。
大きく息を吐いて、2人に向き合う。
どこか気まずげな表情をしているのを見て、確信する。やはり、2人は何かを企んでいたのね。
にっこり笑う。それはもう、わたくしができる最大級の笑顔だ。
けれどその笑顔を見た2人は、顔を余計に強張らせた。もうそれは自白と変わりませんわね。
「さて、その表情をされているのはなぜか、聞いて差し上げますわ。どうされたのですか?」
「そ、その……」
「ヘンリエッタ様、メアリー様はわたくしに協力してくださっただけですわ」
やはりか。きっとパトリシア様がダメージを受けかねないことを、メアリー様から提案するとは思えないから。
だからパトリシア様の、行動の理由が知りたい。
「どのような協力を頼んだのですか?」
「胸キュン作戦ですわ」
「はい?」
「ヘンリエッタ様に、胸キュン体験をしていただこうと思いましたの」
聞き間違いかと思ったけれど、聞き間違いではなかった。
なんだろう、頭が痛いですわ。
「……えっと、何から突っ込めばいいのか……。まずなぜわたくしに胸キュン体験とやらをさせようと思ったのですか?」
「勿論ヘンリエッタ様に、恋愛感情を自覚させるためですわ」
「……あ、はい」
なんだろう。真面目にパトリシア様は言っている。それは分かる。分かるけれども。
言葉を選ばずに言うなら、知能が低く感じるのはなぜかしら。
パトリシア様は聡明なはずなのに。なぜそんな風に感じてしまったのか、自分でも分からない。
「わたくしは、以前言った考えが間違っているとは思いませんの。ヘンリエッタ様のお話も聞いて、そう言った気持ちを考えないようにしていると考えましたの」
メアリー様にも恐れていると言われましたわね。自分ではよくわからないのですけれど。
けれど顔も名前も覚えていない人のことを、いつまでも引きずっている自覚はありますわ。その理由に恋愛は面倒臭いと思ってしまっていますもの。
それを克服したいと思っている訳でもありませんし。
わたくしにとってはそうでも、パトリシア様から見たらなんとかしたいということなのでしょうか。
「それでメアリー様に相談したところ、ハプニングなどで突発的なことが起きれば、心は素直に反応するのではないかという結論に達しましたの」
「……それで先日から、ちょっとやってみたんです」
「あの殿下とぶつかった時も、ということですのね」
「はい」
メアリー様も会話に混ざる。
「わたくしの知る限り、まだ2回目ということであってます?」
「はい。あんまり頻繁にあると怪しまれるとおもって、間を空けようと話してもいました」
「そう。ということは作戦を考えたのは、ほぼメアリー様なのですね?」
「わたくしではどういったのが効果的か、分かりませんでしたので。……しかし今回のことは、完全に予想外でしたわ。ヘンリエッタ様の行動が」
「お2人も見ていたでしょう。昼食の時に、殿下の毒味役の動きを」
「見ていましたが、まさかヘンリエッタ様がやるとは思いませんでしたわ。……流石にあれを素でやるので、もうこちらが混乱しました」
……これから何か、食べ物持ってくるのやめよう。
多分殿下混ざってくるから、面倒臭い。殿下がこなければいいけれど。
そんな風に内心で思っていたことが漏れていたらしく、2人に諭される。
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