クッキー事件①
お兄様に止められたけれど、その後夕食後も話し合うことにした。
わたくしは明日でなくてもいいと言ったけれど、シェフ長含め全員やる気満々だった。
とはいえ、殿下たちは目新しくする必要もないと思う。話の流れで食べてみたいということになったのだし、以前作ったものを出すのが逆にアピールに繋がると思う。
今から作ると言ったシェフたちに、無理はしないように言ってわたくしは部屋に戻る。
わたくしは令嬢ということもあり、厨房に立って包丁を持つことは出来ない。
前世の記憶を頼りにやれなくもないと思うけれど、いかんせん10年以上は持っていないことになる。ブランクもあるし、怪我をしてしまった場合にシェフたちが罰を受ける可能性が高い。きっとわたくしが言えばお父様は罰を与えないだろうけれど、シェフたちが気にしてしまう。
それはできるなら避けたほうが無難だ。なので、作る段階に入ったところでお暇させてもらう。
シェフたちはいい笑顔で、任せてくださいと言っていたので大丈夫だ。なんと言ってもプロだし。
ということでシェフに任せて、わたくしは先に休む。
エマに湯浴みの後のケアをしてもらう。もう令嬢として生きているので、恥ずかしさを感じることもない。
ただただ、気持ち良さに身を委ねる。香油もリラックス効果のあるものであり、とても心地よい。
「エマは本当にマッサージが上手ね。けれど、年齢的にまだ必要ないようにも感じるわ」
「美容のためもありますし、姿勢改善のためでもあります。お嬢様は姿勢が崩れることもないですが、やはりケアをして良い状態を保つのも大切です」
「そうね。ありがとう。たまにはわたくしがマッサージしましょうか? 見よう見まねになるけれど、できると思うの」
「そんな、恐れ多いです。お気持ちだけもらっておきますね」
「残念ね。きっとわたくしよ働いているエマの方が、ケアが必要だと思ったのだけれど」
「侍女が主人にマッサージしてもらうとなったら、あらぬ噂が立ってしまいますもの。それに、侍女同士で練習と称してマッサージはやり合っています」
「それなら安心だわ。やはり、健やかに働いてもらうのが1番だもの。わたくしがマッサージするより、ずっと良いものね」
「けれどお嬢様がマッサージしてくれるとなったら、きっと屋敷中の侍女が押し寄せますよ。マッサージするのも、うらやましがられますから」
「それは嬉しいわね」
わたくしは使用人たちとも、うまく関係を築けているらしい。わかってはいても、そう言われると素直に嬉しい。
そんな他愛ない話をしながら、だんだん眠気が襲ってくる。
ウトウトし始めたところで、マッサージが終了した。
エマにお礼を言って、そのままベッドに入る。あっという間に夢の世界に旅立った。
◇◇◇
翌日。
作ってもらったクッキーを持参して、学園に向かった。
4人に放課後、一緒に食べようと誘う。皆様、楽しみにしてくれているようで嬉しい。
特にダニエル様が1番ソワソワしていて可愛かった。そんな様子を見て、メアリー様は相変わらず背を向けて震えている。
平和だ。
朝、お兄様とトミーも誘ったのだけれど、お兄様は生徒会の仕事で断られた。とても悔しそうにしていたけれど、仕方ない。
トミーも用事があるといわれた。本当に用事があるかもしれないし、わたくしから距離をとっているように感じてしまう。
寂しいけれど、今は待つしかない。昼食は一緒に摂ってくれるので、我慢だ。
そして放課後。
よほど楽しみにしていたらしいダニエル様が、わざわざカフェエリアの一部を貸し切ってくれていた。
そこでお茶も楽しみながら、ということらしい。
それって権力濫用ではと思ったけれど、実はわたくしが知らないだけで事前に言えば予約席として貸してくれるらしい。
なんとも素晴らしい。そして一瞬でも疑ってしまって、申し訳なく思ってしまう。声には出していないので、心の中でダニエル様に謝っておく。
なんだかんだ、殿下も楽しみなようで何よりだ。




