シェフの熱意が凄いですわ
邸に帰って、早速シェフに話をするために厨房へ足を進めた。
顔を出すと夕食の準備で忙しそうに動き回っていたので、出直そうと踵を返した時。
「お嬢様、どうされたのですか?」
わたくしに気がついたシェフ長が声を掛けてくれた。
「お願いがあったのだけれど、忙しそうだしまた改めて来るわ」
「もう少しで終わりますので、大丈夫です。もしかして、ご友人お2人にクッキーをご所望ですか?」
話がとても早い。というかもはや読心術でもしてます? 一応、クッキー以外でもお話はしているのに。ピンポイントで当てるなんて。
「ええ、その通りなのだけれど……。よくわかったわね?」
「そろそろ時期かと思いまして。お2人とも食べたいとおっしゃると思っておりました」
うちのクッキー、麻薬的なものは入っていないわよね?
そんな定期的に食べたくなるなんて。
うん、とても気に入ってくれてると考えておこう。
「ありがとう。実はパトリシア様とメアリー様以外に、殿下とダニエル様の分も作っていただきたいの」
「はい?」
シェフは予想だにしていなかったらしく、ポカンとしていた。
まあ、今まで交友関係を広げていなかったからわかるわ。家族にすら心配されていたのだから、シェフ長が驚くのも無理はない。
と思いきや。
「お、お嬢様はとても聡明な方で、我々の誇りです。しかしながら殿下と次期宰相候補という将来の重鎮方を、虜にするとは。トミー様の件もありますし、心配でございます」
シェフ長の想像が斜め上だった。違います。
「ちょっと待って、その想像は突拍子もなさすぎるわ。落ち着いて。ただ話の流れで、ご興味を持っていただいたという話よ?」
そう言えばお母様にも傾国の美女になりそうとかいわれたけれど。やめてください。
わたくしにはそんな気はこれっぽっちもございません。
「はっ申し訳ございません。お嬢様なら可能だと思ってしまって」
「ねぇ。それ、褒められているととっていいのかしら?」
「もももももちろんでございます‼︎ お嬢様は我らの誇りですので」
まあ、話し方からわかっていたけれど。思わず聞いてしまった。ひねくれた取り方をするなら、ビッチと取られてもおかしく無いからね?
「まあ、いいわ。それでレシピの相談もしたいのだけれど、都合のつく時間はいつかしら?」
「今! 今でございます!」
「え? けれど、さすがに忙しいでしょう?」
「殿下とバーナード公爵子息に出すのであれば、優先させていただきます! お嬢様のためにも!」
「やっぱり勘違いしていない?」
「それに! バーナード家の方に認めていただければ、商品化も夢ではありません! かの家はスイーツに目がなくて、気に入ったものは必ず次の流行となることを約束されるので‼︎」
「まあ、そうなの?」
「はい!」
それは知らなかった。きっと頭脳専門の方が多いから、日頃から糖分が必要なのね。
ダニエル様も甘いのがお好きみたいだし。
けれどバーナード公爵家がお菓子の販売をしているとは聞いていない。
きっと周りが盛り上がって、流行するとかそういう理由なのでしょうね。
というかわたくし、商品化する予定は全くなかったのだけれど。
そんなこともシェフ長は見抜いたらしい。我が家は優秀な方が多いこと。
「お嬢様がそういったことに消極的でしたので言えませんでしたが、このアイディアは素晴らしいです! それに味の改良へのアドバイスも的確で! お嬢様のそういった素晴らしさを、もっと知らしめたいと常々思っておりました。なので我々一同、全力を尽くさせていただきます」
「え、ええ。ありがとう」
あまりの勢いに、頷くしかない。クッキーってこの世界にも昔からあったはずだけれど、そんなに奇抜なアイディアでもないと思うのだけれど。
あれか、もしかしてあったけれど金銭とかそういった意味で、メジャーにならなかったとか?
そんな風に考える暇もなく、シェフ長と話し合うことになった。
もちろんダニエル様の希望を伝えて、その後思ったより話し合いが白熱して様子を見にきたお兄様に止められることとなった。




