クッキーをご所望のようです
この音はどこからと反射的に探してしまうが、答えはすぐにわかった。
メアリー様が顔を真っ赤にして、お腹を押さえたからだ。
「こ、これはっ違います!」
何が違うのだろうか。いや、とにかくフォローしなくては。
「ええ、本当に集中しましたもの。空腹を感じるのは当然のことですわ。ですから大丈夫ですわ」
「メアリー様、何か摘みます?」
わたくしが言うと、パトリシア様も便乗してくれる。
でもなんだろう? 何かを狙っているような瞳に感じるのは気のせいだろうか。
そして、メアリー様も何かに気がついたような表情をする。
「あっ……いいえ! もう少しで夕食ですし……。ああ、でもまたヘンリエッタ様のクッキーが食べたくなりました」
「え?」
急にクッキー。そんなに気に入ってくれてたのね。
なんだか脈絡なく出てきた気がするけれど、そんなに疲れてしまっているのかしら。欲望が優先されている状態?
しかし残念なことに、わたくしはクッキーを持ってきていない。あれは味を提案して我が家のシェフに作ってもらっているものだから、先に依頼する必要もある。
「ヘンリエッタ嬢のクッキー?」
「はい! ヘンリエッタ様の作るクッキーは、とても美味しいんです! お腹が空いたからか、急に食べたくなったんです」
「ええ。あのホッとするような、優しい甘味のクッキーは何度食べても飽きませんわ」
「そう言っていただけて嬉しいですが、作っているのはシェフですわ」
殿下にわたくしのクッキーを力説するメアリー様。パトリシア様も褒めてくれるが、作ったのはわたくし自身ではない。
話を聞いた殿下のカーマインの瞳が、キラリと光った。あ、なんだかとても嫌な予感がしますわ。
「へぇ。そんなに2人が言うなんて、とても興味があるね。ダニエルもそう思わないかい?」
「わ、私は別に……」
「そんなこと言って、期待しているのはバレているよ?」
「……」
そしてわたくしを見るお2方。やめてください。その期待に満ち満ちた目でわたくしを見ないでくださいませ。
内心はそう思いつつも、殿下のご希望とあれば逆らうわけにもいかない。
「……まあ、ではシェフにお願いしてみますわ。ご期待に添えるかわかりませんが」
「ああ、楽しみにしているよ」
「ちなみに、苦手なものってありますか? 色々なものを生地に混ぜ込んだりしますので、何かあれば除外しますわ」
「私は特にないかな」
「承知しました。ダニエル様は?」
「……ドライフルーツは避けてもらえると……」
「まあ、わかりましたわ」
「あとダニエルは甘めの味付けが好みだね」
「殿下っ」
あら。ダニエル様は見た目だけで言えば甘いものは苦手そうだけれど、甘いものがお好きなのね。
ギャップね。なんだかダニエル様って色々な属性が盛られている気がするわ。
殿下に暴露されたダニエル様は、顔を赤くして殿下に抗議している。
微笑ましいなぁ。あ、メアリー様は大丈夫だろうか。
そう思ってメアリー様を見ると、こちらに背中を見せてプルプルしている。
うん、相変わらずですわ。ここの関係はどうなるのかしら。パトリシア様もだけれど、メアリー様も自分の恋を叶えたいだろうに。
メアリー様は‘’推し‘’らしいけれど、最近はだいぶ普通に話せるようになっている気がするし進展するといいな。
「では、明日に用意できるかはわかりませんが、早いうちに用意いたしますわね」
「ああ、楽しみにしているよ」
「…………お願いします」
「ふふ、わかりましたわ」
やばい。ダニエル様が可愛い。実は楽しみにしていることがすごく伝わってくる。
思わず笑うと睨みつけられてしまったけれど、ちっとも怖くない。
「なんとか、話を持っていけました。パトリシア様ありがとうございます」
「いいえ。殿下も興味を持ってくださいましたし、よかったですわ。けれどメアリー様、どちらかというとダニエル様の株が上がっていませんこと?」
「そ、そうですね!二次創作でしか見られなかった、ダニヘリがまた見られそうです!」
「にじそうさく?」
「あ、えっと、その」
「とりあえず、感情がついていって無さそうね。言葉と表情が合っていないわ」
「そ、そんなことはっ。パトリシア様だって!」
「ええ、やはりこう言ったことを見ると、胸が痛いものですね」
「こう言うときはクッキーを楽しみにしましょう。本当に美味しいですし」
「そうね。リクエストでもしようかしら」
「いいと思います!」
……最近、2人がよく内緒話してるなぁ。




