勉強も大切ですわ
なんとなくパトリシア様とメアリー様の、行動に注意するようになった。
しかし、警戒しすぎていただけだったのか、その後はいつも通りだった。
平和になった日常を過ごすのは、とても幸せだ。
そんなある日。放課後にパトリシア様とメアリー様に誘われて、お茶をしていた。
食堂では食事をするエリアと、お茶を楽しむカフェエリアに分かれている。
今までは忙しかったり、邸に行ったりで使う機会がなかったけれど気にはなっていた。
食事とは違い、実費で払う必要はあるけれどわたくしたちは特進クラスということで、割引をしてもらえる。
最初に聞いた時はなんだか庶民的だなとは思ったけれど、特待生で来ている子や家にあまり余裕がない子への配慮らしい。
やっぱり頑張れば手が届くとなると勉強もより身が入るだろうし、ご褒美があればより一層頑張れるしと一石二鳥のようだ。
また、勉強のスペースもできている。わたくしたちも、勉強をおろそかにしては特進クラスから落ちてしまう可能性も0ではない。
今まで勉強よりも別のことに重きを置いていたので、話題には登らなかった。
と言うことで今日は、お茶をしながら勉強という話になった。
今更であるけれど、この学園にも定期テストがある。演習と称して実技は行われているので、魔術の扱い方はよく見られている。
魔術は頭に知識としては入っていても、使えなければ意味がないという考えらしい。
筆記試験は年に2回だ。その代わり、割と膨大な範囲だ。授業を真面目に受けていれば、基礎的なものは問題ないと言われている。
そろそろ試験も近くなるということで、少しずつ勉強を始めようということだ。
特にわたくしやパトリシア様は周りからの見えないプレッシャーもあるので、悪い結果を出すわけにはいかない。
学園の成績は、社交界にも漏れる。外から圧力をかけることは許されていないけれど、どうしても抜け道は存在する。人の口に門は立てられないしね。
噂好きの貴族たちなら尚更。
なので家門に泥を塗らないためにも、頑張らないといけない。
3人で勉強しているが、和気藹々という感じではなく黙々とテキストに向かっている。
たまにわからないことがあると、聞き合いっこするくらいで静かに集中できる。
1人でやるよりずっと集中できるのだから、素晴らしい。やはり周りに頑張っている人がいると自分も頑張れるなと、しみじみ思った。
「お2人とも、そろそろ休憩にしましょう。効率が落ちてしまいますわ」
パトリシア様の言葉に時間を確認する。2時間くらい勉強に集中していたらしい。
「まあ、いつの間にこんなに時間が経っていたのですね。確かに集中しすぎて、体が固まっていますわ」
「集まって勉強すると、こんなにも集中できるものなんですね」
少し体を動かすと、痛いところがある。3人で軽く体をほぐしてからお茶をすることになった。
お茶を飲むと、体が水分を欲していたことを自覚する。体に染み込むような感覚に、ホッと息を吐いた。
「とりあえずまだ時間もありますし、今日はここまでにしましょう。おそらく今日は集中できないでしょう」
「そうですわね。休憩したら解散にしましょう。夕暮れになっていますわ」
「本当ですね、綺麗」
本音を言うと、お茶だけでなくスイーツも食べたい。しかし、夕食の時間も近いので我慢しないと夕食が入らなくなってしまう。
それは、2人も同じようだった。
「あぁ、本当はスイーツも食べる予定だったのに……」
「そうですわね、甘いものが食べたいですわ」
「集中しすぎていた分、体は正直ですね」
特にメアリー様は、残念がっている。
そんな話をしつつ、お茶がもう少しで飲み終わる頃。
「やあ、3人とも随分頑張っていたようだね。少し噂になっていたから、気になって様子を見に来たんだ」
「まあ、殿下。ご機嫌よう。噂ですか?」
殿下とダニエル様が一緒にやってくる。疑問の声を上げたのはパトリシア様だ。
殿下は笑いを堪えながら、ダニエル様は少し呆れているようだ。
「ああ。カフェエリアで、真剣に勉強している3人組がいるとね。そこの空気がとても緊張感があるものだから、居心地が悪いというかのんびりお茶している場合じゃないって思わせる雰囲気だったと話している生徒を何人か見かけたよ」
「それは……なんだか申し訳ないですわ」
お茶も最後に飲んだだけだし、もはや図書室で勉強した方が良かったのでは?
「まさかそんな風に噂になるとは、驚きですね」
メアリー様がそう言った時、お腹が鳴る音がやけに響いた。




