食パンがあれば完璧でしたわ
何か嫌な予感はしつつも、パトリシア様とメアリー様からは悪意は感じない。そもそも2人がわたくしの嫌がるようなことをしない、と言う確信もある。
なので静観を決め込むことにした。何か被害があれば、さすがに言わせて頂こう。
善意が全て正しいわけではないからね。
どこか様子のおかしい2人を横目で見ながら、わたくしはそっと決意した。
◇◇◇
数日後、朝。学園に登校すると、珍しくメアリー様がいなかった。
いつもは早めに来ていて、出迎えてくれることが多いのに。もしかして体調が悪いのかしら?
「ヘンリエッタ様、おはようございます」
「パトリシア様、おはようございます。メアリー様がまだ来ていらっしゃらないのですが、何か知っていますか?」
「いえ、何も。まだ時間がありますし、寮まで見に行ってみましょうか?」
「そうしましょう」
パトリシア様と寮に向かう。寮への道はまだまだ生徒が多い。わたくしたちも少し早めに着くようにしているのもあり、これから登校する生徒も多いのだ。
それでも時間が経つに連れて、生徒の数はまばらになっていく。
一旦校舎から出ようとした時。視界の端で光った気がした。それに気を取られたのが良くなかった。
ちょうど曲がり角で視界が悪かったのも災いした。急に出てきた人影とぶつかってしまったのだ。
「きゃっ」
全く予想していなかったので、踏ん張ることが出来ずに後ろに体が倒れていく。来るであろう衝撃に思わず目を瞑った。
しかし、いつまで経っても衝撃はやって来ない。それどころか暖かい。恐る恐る目を開けると、カーマインの瞳と目があった。
その瞳も驚きに見開かれている。
「で、殿下……?」
「だ、大丈夫かい? 驚いたよ」
どうやらぶつかった相手は殿下で、倒れそうになったわたくしを支えてくれたようだ。
腰に手を回されて、力強く支えてくれている。
「申し訳ありません。わたくしは大丈夫ですわ。殿下も大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だよ。私の方こそ、周りもよく見ずにすまなかった」
そっと腰に回された手が離れる。本当にびっくりした。
まさか前世での少女漫画もびっくりなお約束展開があるとは。唐突に至近距離で見つめられるのは、さすがに心臓がドキドキする。
その顔が整っているのなら尚更。
「ところでこんなところでどうしたんだい? メアリー嬢も見当たらないようだけれど」
「あ、そうなのです。まだいらっしゃっていないようなので、様子を見に行こうかと思いましたの」
と、その時。
「あれ? 皆さん、おはようございます」
入り口に立っていたのは、メアリー様だった。
「メアリー様、おはようございます。メアリー様がいらっしゃらないので、様子を見に行こうとしていましたの」
「それはすいません。探し物に手間取ってしまって、いつもより遅くなってしまったんです」
パトリシア様が声をかけると、メアリー様は照れたように言った。
探し物ってなんだろう? と思ったけれど、もうすぐ授業が始まってしまう。
「そろそろ向かわないと遅刻してしまうよ。行こうか」
殿下に言われて、わたくしたちも教室に戻る。
歩き出した時に、後ろからパトリシア様とメアリー様の話し声が聞こえたけれど、聞き取れなかった。
……やっぱり嫌な予感がするなぁ。
そうは思いつつ、それ以上考えるのを辞めた。
「くっ、やはり‘’胸キュンポイント‘’なだけありますわね。正直羨ましかったですわ。メアリー様の魔術でお2人とも気を逸らしたようですし、お互いドキドキしたのでしょう。羨ましい」
「本音が漏れてます。パトリシア様、無理しないでくださいね。辛くなったら一旦やめましょう?」
「いいえ。確かに黒い感情も出ていますが、今は辞めたくありませんわ。本当に辛くなったら言いますので、大丈夫ですわ。それにヘンリエッタ様は、動揺されていましたもの。おそらくうまくいったと思いますの」
「わかりました。とりあえず、滑り出しは順調ですね。殿下のこの時間のルートもあっていたので良かったです」
「お2人とも、置いていきますわよ。本当に遅刻してしまいますわ」
「あ、待ってください!」
痺れを切らして急かすと、2人は慌てて着いてきた。
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