パトリシア様とメアリー様が変ですわ
もう一つ変わったことがある。
ここはわたくしの予感が、当たったということだ。
そう、昼食の席に殿下とダニエル様が加わることになったのだ。
王族と、公爵家の2家、侯爵家。そして光属性として覚醒し、注目を浴びるメアリー様。うん、ロイヤルにも程がある。
わざわざ目立たない席で昼食を摂って居たのに、もう注目が凄い。さすがに視線がうるさい。
いえ、この際お2人が加わったことは歓迎するのですが。
それとこれとは別です。とにかく視線がうるさい。けれど淑女たるもの、そんなことを周りに悟らせてはいけない。
幼い頃から教育を受けているので、朝飯前なのだ。それは、メアリー様もだった。元々優秀な方なのも加えて、周りにいる人たち(特にパトリシア様)の影響で自然と立ち振る舞いが洗練されている。
さらに以前は隠しきれなかった奇行も、さすがに周りの目を気にしてやらないようにしている。ダニエル様への対応もだいぶ落ち着きが出ている。
全く人目のないところだと出ているので、本当に頑張って抑えているのだと思う。
そんな超ロイヤル席で、思い思いの昼食を食べる。
時に談笑を挟みながら進む、和やかな時間。
そんな空間に突然、殿下の困惑したような声が上がった。
「……さすがにそこまで見つめられると、気になるんだけどな? どうしたんだい、メアリー嬢」
「えっ」
問いかけられたメアリー様は、驚いた声を上げた。わたくしは見ていなかったけれど、おそらくバレないように見ていたのかな。
「い、いえ。なんでもありません」
「なんでもないって言えない熱量を受けたんだけれど」
あわあわしだすメアリー様を、殿下は苦笑しながら見ている。
「あと、パトリシア嬢も隠しきれていないからね。私の顔に何かついているのかい?」
「なっなぜバレて……! うゔんっ気のせいですわ。おほほほほ」
「……パトリシア嬢、ごまかすならもう少し上手くできるだろう?」
「うっ」
お2人は何をしているのかしら。メアリー様はともかく、パトリシア様まで。
殿下のいう通り、パトリシア様はそういったことの躱し方も普通に上手だ。なのに、この素人丸出し感。殿下にそういったことは見抜かれるけれど、それを差し引いてもぎこちない。
釣られるように2人を見ると、ヘラッと笑うだけで何も言わない。
なんだろう、嫌な予感がするのは。自分で言うのもなんだけれど、こう言う時の勘は大抵外さない。
「……お2人とも、何か良からぬことを企んでいますわね?」
「ま、まあ。ヘンリエッタ様ったら、急に何をおっしゃいますの?」
「そう、そうですよ。別に企んでなどいませんよ」
「……まずはわたくしと目を合わせてから、その言葉をもう一度言っていただきたいですわね」
明らかにしどろもどろな2人。怪しい。すごく怪しい。
じーっと圧をかけながら2人を見つめる。
そして逸される視線。
仕方ない。これはお2人が悪いわ。
「まあ、それではわたくしの気のせいでしょう。ええ、お2人の視線が左右に揺れ動いているのは見えてませんとも」
「「うっ」」
「あら、パトリシア様。手を握ったり閉じたりしていますわね。ふふふ、昔からの癖ですわねぇ。大体焦ったりしていますとその仕草をしていますものね」
「ーーっ」
「メアリー様、喉元に手をおやりになって……。ふふふ、何を不安になっていますの?」
「えっとぉ、その」
「わたくしに隠し事をしようなんて、10年早いですわよ? うふふ」
「まあまあ、ヘンリエッタ嬢。私は大丈夫だよ」
殿下に宥められてしまった。被害? を受けたのは殿下だし、しょうがない。
「殿下がそうおっしゃるのなら、わたくしは何も言いませんわ」
「いや、気にはなっているけれど。とりあえず圧がすごいよ」
「そうでしょうか?」
そんな会話をしている中、蚊帳の外になってしまった男性陣はヒソヒソ話す。
「……ヘンリエッタ嬢は以前にもまして、気迫がすごいですね。邸でもあんな感じなのですか?」
「いやぁ。昔から怒らせると怖いよ? じわじわ追い詰めるあの感じは味わいたくないよね。確かに圧のかけ方が前よりすごくなってるし」
「それ、兄上がいいます? 僕は兄上も怒らせてはいけない人になっているんですが」
「……トミー、私はスタンホープ兄弟を敵に回したくないですね。貴方も爆弾ですからね?」
「え? まあそうですね」
否定しないトミーに、ダニエル様はため息をついた。
そんな会話はわたくしには届いていなかったけれど。




