メアリー様はチート?
あれから表面上は穏やかな日々が続いている。
けれど、変わったことも多かった。
まず一つに、メアリー様のを見る周りの目が変わっている。やはり、魔物襲撃事件で光属性の魔術を使いこなせるようになったからだろう。
そのことで、殿下がかなり気を揉んでいたらしい。その理由は、あの時メアリー様は詠唱をせずに魔術を行使したことだ。
本来、魔術の詠唱は魔力を言葉という道に乗せて放つ。つまり詠唱しなければ、魔力をただ放出するだけということになる。
前世でいう‘’言霊‘’と同じだろうか。言葉にすることで、力を持つことになるということだ。
恐らく建国の時代は、魔術を作った人たちがいるはずだ。けれどその新たな魔術の作り方は今の時代に伝わっていない。
それこそ、子供の寝物語では神様が教えてくれたということになっている。元々、ナトゥーラ王国はその成り立ちから神を信じているから違和感はない。
だからこそ、メアリー様の状態は異質といえる。
今までの通説を覆した可能性があるのだ。研究者がこぞってメアリー様に近づいてくるのは、正直当然だと思う。
それに反対したのが、なんとメアリー様のお父様、キャンベル男爵だった。
「娘を研究対象にしたくない」
そう言って、研究者たちを追い返したそうだ。メアリー様も驚いていたらしい。とはいえ、今までの魔術の歴史が変わる可能性があるということで、研究者たちの執念は凄かった。何度もキャンベル男爵邸に訪れたそうだ。
最終的に、メアリー様の意志で協力することにしたらしい。
「それでナトゥーラ王国が発展したら嬉しいです」
そこらの貴族より貴族らしい立ち振る舞いでそう言った。
キャンベル男爵は、色々制約を作って許可したようだ。それには殿下の言葉添えもあったので、効果は絶大だった。主に研究者たちに。
うん。さすがにないと信じたいけれど、モルモットのようにされたら怒り狂う人が続出するからね。わたくしも含めて。
それを殿下が釘を刺してくれたのだ。問題ないだろう。
しかし、研究は思いのほか早く終わることになる。
なぜならば、メアリー様は所謂「感覚で魔術を使うタイプ」だった。頑張って説明するのだが、研究者たちに伝わらなかったのだ。
自分の魔術を行使する感覚を、言語化することが出来なかった。
わたくしたちも聞いたけれど、残念ながら理解する事はできなかった。
自分の不甲斐なさにショックを受けるメアリー様を、どう慰めればいいのかパトリシア様と悩んだ。
それを解消したのは殿下だ。さすが有能な方。
「魔術は確かに詠唱が必要だ。けれど、同時にイメージの世界でもある。きっとメアリー嬢は詠唱が必要ないくらいに、イメージが具体的に出来ているんじゃないかな」
なるほど。そもそも詠唱とは魔力を変換するために、具体的にイメージしやすいように作られたということか。
確かに、詠唱すればこういう魔術が使えるというイメージが自然と付いている。そのことを踏まえると、そういった考えもできる。
メアリー様はその話を聞いたあと、転生ボーナスでは? と言っていた。
曰く、転生系の物語では現代知識や新たな能力を付与されることによって、チート級の能力を使えるようになることがあるという。
メアリー様は具体的なイメージはできていないと言う。
イメージというより想いが強いらしい。あの時はわたくしをとにかく護りたいと思っていたらしい。
それに具体的なイメージができるのなら、研究者たちにしっかりと説明できるはずと力説していた。
余談だけれど、パトリシア様以外に前世の話はしていない。3人だけの秘密だと思うと、特別だと思ったから。自然にそういう状態になったのだ。
なので殿下には、あえて否定はしなかった。結局真相は確かめようがないのだし、許してほしい。
それにしても正直にいうと、羨ましい。わたくしも転生しているのだし、何かしらボーナス欲しかった。
けれどそもそも、スタンホープ家に生まれたことがボーナスだ。大切な家族に囲まれて、パトリシア様とメアリー様にも出会えたのだから。




