【幕間】侯爵家次男の葛藤 ③
アメリアは聖母のような眼差しで、トミーを見つめる。
「トミーはへティのことを特別に思っていることは知っていたけれど、自分の幸せよりもへティの幸せを優先したいのね。……そんな考えは滅多にできることではないわ。凄いわね」
「……そうでしょうか。僕はそれでも姉上に振り向いてもらいたいと思っています。中途半端な状態だと思うのですが」
「確かに中途半端は否定しないわ」
アメリアはそう言いつつも、責める雰囲気は全くない。それどころか、慈愛の眼差しがさらに強くなる。
トミーは、なんだ華むず痒い気持ちになる。言葉的には褒められていないはずなのに、アメリアの仕草1つ1つが自分を褒めているように感じるのだ。
「けれど、それが人間じゃ無いかしら。矛盾だらけの生き物よね。……それに感情がどうであれ、トミーはへティのために動いているでしょう? 本当に自分の物にしたいのなら、貴方は閉じ込めているでしょう。それをしていない時点で、凄いとわたくしは思うわ」
「……あ、えっと」
アメリアの言葉に驚いて、何も言えない。
トミーの中でヘンリエッタを監禁したいと思っていることは、バレないようにしているつもりだった。
よりによって、義母にバレてしまうとは考えていなかった。
いや。本当はバレているかもしれないと思ってはいた。考えないようにしていただけだ。
ヘンリエッタにすら隠し事は出来ないのに、ヘンリエッタよりも何倍も上手であるアメリアに隠し切れるはずがない。
思わず息を吐き出して、額に手をやった。
「……本当に母上には、なんでもお見通しなのですね」
「トミーも大切な我が子よ? そのくらいはわからないと、恥ずかしいわ」
「いえ、世の中には知らない方がいいこともあってですね。それに、知っていて僕を野放しにするのも如何かかと思うのですが」
「それを自分で言っちゃうのね。大丈夫よ。本当にそんなことをしたら、さすがに止めるわ。道理に反しているもの。おしりぺんぺんね」
「……」
アメリアがお尻を叩く想像をうっかりしてしまったトミーは、ドッと冷や汗をかいた。
そんなことをされたくない。自分の尊厳に関わる。
ああ、本当に踏みとどまってよかったと、トミーは胸を撫で下ろした。
そんなトミーの様子を見て、アメリアは笑いを堪えながら言う。
「まあ、どちらにせよ。へティは自力で逃げ出しそうね」
「……それは否定しません。姉上なら僕から逃げることは出来るでしょう。……それに、自由にしている姉上が何よりも輝いていますから」
結局のところ、踏みとどまったのはそれが理由だ。閉じ込めてトミーしか映らないようにしても、それではヘンリエッタの魅力が半減してしまう。
自分の元を離れても、輝いている方がずっとよかった。
「トミー。貴方がへティを大切に思っていることは知っているわ。でもね、これだけは覚えていてほしいの。わたくしにとって、貴方も大切な宝物よ。だから、自分のことも大切にしてほしいわ。自分の幸せを蔑ろにして欲しくないの」
「母上……」
「貴方がどういう選択をしても、間違いじゃないわ。監禁は置いておいて。けれど、ケジメが必要な時ってあるわ。自分の気持ちに区切りをつけるという意味でも。もし、殿下にへティを任せるとしても、へティに貴方の思いは伝えた方がいいわ。その時は辛くても、いつか前を向けるようになるから」
「はい」
「でも、わたくしはトミーのことも応援しているわ。どちらにしても、スタンホープ家は貴方の味方よ」
「殿下が姉上を欲しがっていてもですか?」
つい甘えるようなことを言ってしまう。本来であれば、王家に味方しないといけないのだけれど、アメリアは朗らかにいった。
「もちろんよ。ふふ、青春ね。殿下がどんなにへティを求めても、肝心のへティが嫌がれば我が家は認めないわ」
その言葉に、もう一度トミーは自分を見つめ直す。ヘンリエッタの幸せと、自分の幸せを両立することはできるのか。
答えが出るのはまだ先のこと。
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