目を覚ましました
「っトミー⁉︎ 目が覚めたの?」
「ここがわかるか?」
頷きながら体を起こそうとするトミー。しかし、うまく起き上がれないようだ。お兄様が支えて起こしてくれていた。
「トミー、どこか痛いところはない?あ、お水を飲みましょう」
ベッドサイドの水差しからコップに注いでトミーに渡す。トミーはゆっくりと水を飲んだ。
そして、戸惑いがちにわたくしとお兄様を交互に見る。その視線が下へ行き、止まった。目線の先に心当たりがあり、ネグリジェを少し上げる。
「足首は大丈夫よ。治療していただいて治ったの」
ホッと息を吐くトミー。真っ先にわたくしの心配をしてくれるなんて良い子すぎる。
お兄様もトミーの髪を梳くように撫でている。
トミーは恐る恐る口を開いた。
「あの……ごめんなさい。僕のせいで……」
「トミー、謝らないで。転けたことならわたくしが徹頭徹尾悪いのよ。足元をよく見ていなかったのだから」
「いや、あの状態で1番悪いのは僕だよ。年長者なのにちゃんと見れていなかった」
「まあ! お兄様、それは責任感が強すぎます! それにわたくしがわたくしのことをちゃんと見ていなかったのに、お兄様が離れたところから見るなんて無理です!」
「いや、無理かはわからないだろう?」
「そこ張り合うのですか⁉︎ 張り合わなくていいでしょう!」
途中から出来る出来ないという押し問答になってしまう。トミーに気にしないように誘導しようとした結果だが、方向性がずれている。
するとトミーが常にない声で割り込んできた。
「あの‼︎」
初めて聞く声の大きさにびくりとして、トミーを見る。
トミーは目が合うと、俯いてしまった。
「えっと……怪我は治ってよかったです。その……怖くないのですか?」
僕が。
その言葉は空気のように溶けていった。
「その言葉だと……前にも魔力暴走を起こしたことがあるのかな?」
お兄様が尋ねると、トミーは泣きそうな表情になりながらコクンと頷いた。
きっとその時は怪我人も出たのだろう。そして、周りからどんな目で見られたか……トミーの表情が全てを物語っている。
「今回は父上のおかげでこちらは怪我ひとつしていない。だから僕たちの記憶としては、痛みも何もなく気が付いたらベッドにいたという状態だ」
「でも……」
「まあ、怖くないかと言ったら……どうかな。それよりも別のことに意識がいっていたから怖さを感じる暇なんて無かったよ」
「え?」
そこでお兄様はトミーの目を見る。こちらが恥ずかしくなるほど、目に愛情を浮かべながら言った。
「とにかく、トミー。君が無事か心配で心配でそれしか考えていなかった」
その言葉にトミーは目を溢れんばかりに見開いた。徐々に目に涙が溜まっていく。
「僕だけじゃないさ。父上も母上も仕事を中断して飛んできた。へティもマナーを無視するレベルで心配してたんだよ」
お兄様。できればマナー云々は伏せて欲しかった。けれどトミーのことを考えるとそれだけでどのくらい心配してたか伝わりやすいかと、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
代わりにわたくしもトミーの頭を撫でる。
耐えきれなくなったのか、嗚咽が聞こえてきた。
「っぼ、ぼく、前に同じ分家の、っ子たちに意地悪されて……っ思わず突き飛ばして転ばしちゃったんだっ。そ、そしたら、殴られてっその時にっ」
いよいよ嗚咽が酷くなる。切れ切れだったが、何があったのかは理解できた。お兄様は拳を握りしめている。
わたくしは溢れそうな感情を抑えて、トミーを抱きしめた。トミーもしがみついてくる。
お兄様も頭を撫で続けている。トミーが泣き止むまでそうしていた。




