お2人が暴走し始めていますわ
「まあ、今はいないから大丈夫ですわ。相手がいないのが残念とも思っておりませんとも」
「パトリシア様、安心できませんわ」
黒い笑顔を浮かべるパトリシア様に、背筋が寒くなる。
「……とはいえ、そんな奴とわかったらすぐに別れようとしましたわ。けれどプライドも馬鹿みたいに高い人でしたから、別れを告げられたのが許せなかったようでその後も付き纏わられましたわ。これが前世での最後の恋愛ですので、億劫になっているのです」
「……ヘンリエッタ様……聞いていいことかわかりませんが、いいですか?」
「ええ、前世の記憶と言っても朧げですもの。そこまで気を遣っていただく必要はありませんわ」
神妙な顔でいうメアリー様に、笑って答えた。
それでも言葉を選ぶように、時間がかかったけれど。
「その……最後の記憶って覚えています? 今、嫌な予感が頭を占めていて」
「え? まあ、覚えていますわ。あれは――」
「まさか!」
そこでパトリシア様が身を乗り出す。びっくりして、言葉が引っ込んでしまった。
そんなわたくしの様子に気がつくことなく、パトリシア様は続ける。
「ヘンリエッタ様の最後は……っ。許せませんわ! メアリー様、そちらの世界に行く方法はありませんの⁉︎ 何としででも報復を」
「私も許せませんっ! 自分勝手な理由で人の命を奪うなど……っ。けれど、前世でも転生なんて方法は――」
「ストップ! お2人とも、想像をおやめ下さい!」
2人がとんでもない勘違い――前世のわたくしはそいつに殺された――をしていると気がつき、慌てて止める。
「わたくしは! 交通事故で死んだのですわ! ええ、死ぬ直前ではそいつと完全に縁が切れていたので安心してください!」
「本当ですか?」
「嘘をつく理由がありませんわ。ええ、突然のことだったとはいえ、直前までわたくしは幸せでしたので安心してください」
念を推すように、頷きながらいうとようやくいつもの雰囲気に戻ってくれた。
流石に焦ってしまったわ。そんな風に取られるとは思わなかったから。
「……とりあえず、ヘンリエッタ様のことはわかりましたわ」
「わかってくださいましたか。なのでわたくしのことは気にする必要はありませんわ。確かに外野がとやかく言ってはいますが、気にせずパトリシア様の思うようになさってください」
「ならば! そのヘンリエッタ様が再び自分の気持ちに気づけるように、わたくし協力いたしますわ!」
「パトリシアさまー?」
何だろう、過保護モードが発動している。
パトリシア様、何だかいつもと違う。もしかして今まで一気に話しすぎて、オーバーヒートしているんじゃ。
「私も協力します」
「メアリーさまー?」
こっちもだった件について。
「だってヘンリエッタ様、悔しくないですか? そいつのせいで、転生しても恋愛に億劫になっているなんて」
「えっと」
「ヘンリエッタ様! 嫌いな奴への一番の復讐って何だと思います? そう! 幸せになることですよ! こうなったらそいつよりいい人見つけて、幸せになりましょう!」
「いえ、もう世界変わっているので復讐も何もないと思うのですが」
メアリー様の言いたいことはわかるけれど、そもそもそいつの顔も名前も覚えていない。
確かにそいつが元凶であることは否めないし、ギャフンと言わせたい気もするけれど。わたくし達が向こうのことを知れないのと同じで、向こうもわたくしのことなんて知りようがない。
どうすればいいんだろうと考えていると、パトリシア様が口を開いた。
「先ほどヘンリエッタ様は、わたくしの思うように行動して欲しいと言いましたわね?」
「ええ、わたくしのことを気にせず、殿下とのことを考えた方が良いかと思います」
「そもそも、わたくしがどうして今日呼んだと思います?」
「え?」
確かに。何だか途中から話がどんどん変わって、目的を見失っていた。
「その目的は、ヘンリエッタ様に謝罪したかったからですわ」
「謝罪……?」
「ええ。わたくしは貴女に嫉妬していましたの。ヘンリエッタ様は、ずっとそばにいてくれたのに。醜いでしょう? こんな者が、ずっと貴女の友人を名乗っていたのです」
パトリシア様は、ひどく苦い顔で笑った。
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